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The Protagonist  作者: Hoax
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丘の上のお城 1

過去回です。

 村のはずれに歩いて行くとそこには既に立派な馬車が止まっていて、知った顔の二人が教会の神父様と挨拶を交わしていた。

 そのそばでは馬車を操ってきたであろう御者が馬の世話をしていて、護衛の騎士が革の水筒から水を飲んでいた。


 馬車には風雨や砂埃から乗客を守れるように大きな幌が付いていて、幌の側面にはヘルマトス教の宗教的象徴である三日月と槍が交差した模様が刺繍されていた。


 幌と同じ模様が両の胸に施された黒の祭服を纏った神父様は、服の色と正反対の真っ白な頭髪と柔和な笑顔が印象的で、まさに聖職者といった感じだった。


 僕はその中の一人のプラチナブロンドの中性的な容姿の青年―――フィンレーに手を振りながら彼らに近づいた。

 僕と父さんは三人にそれぞれ挨拶をし、僕はフィンレーと、父さんはオムレイさんと神父様と話をして、他の新成人たちを待った。


「よっ!僕が一番乗りだと思ったのに、まさか先を越されるとは。よっぽど今日が楽しみみたいだな」

 僕は揶揄うようにして言った。


「父さんは村の代表だからね。神父様が迎えに来てくださったのに誰もいなかったら失礼になるだろ。だから僕たちは早くから来てたってわけさ」

「ふーん」

「そういう君こそずいぶん興奮しているようだけど?」

「そりゃそうさ。なんてったって今日から僕たちも大人だろ。それに村の中は変化が少ないからね。非日常は大歓迎さ」


 自分が勇者に選ばれるかもしれないなんて思ってワクワクしているなんて言ったら揶揄われることは間違いない。

 僕は浮き立っている本当の理由を隠して話を続けたが、一緒に育った彼にはもしかしたらばれていたかもしれない。

 

 そんなたわいもない会話を交わしているうちにこの日のの主役たちも集まったようで、皆で馬車に乗り込んだ。




※ ※ ※ ※




 村の新成人全員とその保護者が乗ったとあって馬車は多少窮屈であったが、馬車に乗ることも、町へ出かけることもあまり多くはなかったから、そんな些末なことは気にも留めずフィンレーと会話をしたり外の景色を眺めたりして過ごした。


 あまり馬車にあかるいとは言えないが、それでもこの教会の馬車がとても立派で、乗り心地も他の民間のものとは比べものにはならないということは何となくわかった。


 大小さまざまな村や集落が町の周りの至るところに散らばっているため、それらすべてに送迎のための立派な馬車と神父様、馬車を操る御者と護衛の騎士を派遣していると考えると、教会の権威が計り知れないということがわかる。


 それもすべてヘルマトス様の祝福のおかげだ。


 この世界にある国々は僕たちが暮らすバイソーバを含めて新しい国が多い。


 それはバイソーバの北西に位置する島国であるアンブロシウス魔導国を除いたすべての国が過去の大災害によって一度滅びたからである。


 大災害とはいったもののそれが本当に災害であったのかは現存する資料がないため定かではない。


 峨々たる山々が噴火し、火口より生まれ出でた深紅の大蛇が世界を呑み込んだとも、海が荒れ狂い、空では青紫の雷が轟き続けていたとも、はたまた建造物を覆いつくすほどの雪が降り続けて、世界は氷に包まれたとも言われている。


 世界各地に魔神や魔王と呼ばれる邪悪な存在が現れ、それらが各地の勇者たちの手によって討ち滅ぼされた。しかし世界が平和を取り戻したのも束の間、すぐに大災害が発生し、アンブロシウスを除いたすべての国が滅び、激動の時代の中で史料は失われてしまったということだけが言い伝えとして残っている。


 諸説芬々としていて何が原因で世界が破滅へと至ったかはわからないが、勇者に滅ぼされた魔神の呪いによって天変地異が引き起こされたという説や、英雄の地位では飽き足らず、神になろうとした愚かな勇者が神の怒りを買い、世界が滅ぼされたという説などがまことしやかに囁かれている。

 

 それはともかくとして、大災害を辛うじて生き残った僅かな人々は、アンブロシウスからの旅人の手も借り、復興に尽力した。

 しかし現実とは厳しいもので、文明が滅びた影響か、急速に成長した森が大陸全土を覆いつくしていったという。

 森の中では狼などの恐ろしい獣や化け物が闊歩しており、文明の再興はおろか日々の生活すらままならい状況に陥った。

 そんな暮らしの中で少しづつ消耗してゆく先人たちは緩やかな死を迎えようとしていた。


 そんな時だった、奇跡がもたらされたのは。


 人々の中から超人的な力を持った者達が現れたのである。

 彼ら彼女らは夢の中でこの世の物とは思えない美しさと神々しさを纏った方に出会い、その方から祝福を授かったと皆一様に証言したそうだ。

 最初に祝福を授かった者たちは、その力を以って深い闇が支配する森林を切り開き、この土地に文字通り光をもたらした。

 大陸を覆うほどの森林は少しづつ伐採され、それに伴って農業や牧畜が可能となり、人々は暗澹たる生活に別れを告げた。

 

 これが嚆矢となり、最初に祝福を授かった者達に倣い次々と人々は祝福を受け、力を手にした。


 生活は安定し、人口も少しづつ増加した。


 その後、夢の中で祝福を与えてくれた方は大災害以前に信仰されていた神―――ヘルマトス様の容姿に似ているということが噂されるようになり、ヘルマトス様を信仰するヘルマトス教という宗教へと発展した。

 初めに建てられた小さな祠はやがて小さな教会となり、大聖堂となった。


 同じように初めの祝福者達が森を切り開き作った村は町となり、この国―――バイソーバとなった。

 

 このように国の誕生と宗教が密接にかかわっているため、バイソーバに住むほとんどの人間は成人と同時に洗礼を受け、ヘルマトス教に入信する。


 また、ヘルマトス教の特徴として自由意志を重んじるというものがあり、多宗教の多くが行っている幼児洗礼を認めていない。

 そのため自分の意思を以って行動できるようになる成人の日に洗礼を行うのである。


 そして今日、僕たちは洗礼を受け、ヘルマトス教の一員になるのだ。

 この国に、僕たちに、生きる糧を与えてくれるヘルマトス様に心から感謝を。

読んでくれてありがとうございます。

次話で過去回は終わりです。

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