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いずれアヤメかカキツバタ

隠れた天使様

作者: カガワ

ごめんなさい、おまたせしたかしら。


あらあら、お顔が真っ青ですわ。

よほど怖いことがあったのでしょうね。


でも、安心なさってください。

私に話してくだされば大丈夫。


どんなにおかしくても、不思議でも、

私、笑いませんし、疑いもしませんわ。


さぁさ、お話ください。

このままではいられないでしょう?


――――――――――――――――――

ちょっとした、噂だったんです。


クラスで霊能力があるっていう子がいて、

え?そうですね、仮にA子としますね。


私の学校って、私立で進学クラスは

一学年に一つしかないんです。

だから、クラス替えもないし、

3年間同じメンバーなんですよ。


A子が霊感あるっていうのも、

クラスのみんなが知っていて、

イジることもあったけど、

女の子たちは占いとかやってくれるし、

結構人気もあったんですよ。


A子は、ずっと自分には

守護天使がついているっていっていました。

天使の名前はメパエム様、

…本当の名前はすごく長いから忘れちゃった。


メパエム様はA子の前世の恋人で、

いつもA子のそばで見守っているっていう話でした。

いつも一緒で、霊感が強いA子が無事なのは

メパエム様のおかげなんだって言っていました。


はい?様?ええ、みんなメパエム様って

呼んでいました。

理由はこれから話します。


2年生のときに修学旅行がありました。

大型バスで、クラスごとに空港まで

向かうことになっていました。

そのとき、私はバスの席がA子の隣だったんです。


バスに乗ってから、A子は何だか悪いことが

起こりそうだと、ずっと言っていました。

楽しい修学旅行の始まりなのに、

そんなことをいうA子の隣ですごく嫌でした。


A子は酔いやすいからといって

窓側の席に座っていました。

そして、手にずっと何かを握っていました。

窓の外の景色を見るふりをして、

私はA子の手元を見ていました。

ペン、にしては短い、だけど太い

白い紙に巻いた何かでした。

A子に聞くと「聖櫃」だと言い、

すぐにポケットにしまってしまいました。


一時間ほどでバスは休憩のため、

サービスエリアにとまりました。

みんな一斉にバスから降りました。

でも、A子は降りずに、

耳まで顔を赤くして、

うつむいて震えていました。


理由は少し前に、

後ろの席の少しキツイ性格の女の子たちに

霊感のことをからかわれたからです。


私はA子にトイレに行かないかと

声をかけましたが、

彼女は首を横に振りました。

一人でバスを降りると、

入れ替わりに担任の先生がバスに乗り込み

A子に声をかけているようでした。


出発時間より少し早かったですが、

サービスエリアに欲しいものもなかった私は

少し早めにバスに戻ることにしました。

A子は隣の席にいませんでした。

何故か後ろの席にいました。

「なぜ、後ろの席に座っているの?」

「あ、えっと、間違えちゃった」

そう言ってそそくさと、私の脇を抜けて、

A子は席に座りました。

私は目ざとく、

A子の手に何か握られているのを見ていました。

中を見なくとも、大体想像ができます。

なぜ、座っているの?とは、聞きましたが

A子は、後ろの席に座ってはいませんでした。

シートの背もたれや椅子の部分に

顔をこすりつけんばかりに、

何かを探していました。

…多分、髪の毛だと思います。


空港について、

搭乗まで一時間ほど自由時間がありました。

私は人気のないトイレに入っていくA子の後を

こっそりついていきました。

「メパエム様、メパエム様、

 私の敵を滅してください」

あまりに幼稚なA子の行動に目眩がしました。

おおかた、バスの中で握っていた

「聖櫃」とやらと彼女達の髪の毛で

呪いでもかけているつもりでしょう。

遊んでいるとしか思えません、

段々と興奮してきたのか、

意味不明な呪文のような言葉が続きます。

私は、心底がっかりしました。


事が起こったのはその日の夕食どきでした。

到着したホテルで、クラスごとに夕飯を

とるのですが、生徒が二人きません。

バスで後ろの席に座った女の子たちです。


担任の先生が慌てて探しますが、

部屋にも、ホテル内にもいません。

派手な子たちですから、

外に出たのかもしれない。

そう、先生たちが話すのを耳にしながら

私達は味のしない夕食をとりました。


夜になっても彼女たちは見つかりませんでした。

A子とは部屋が違うのでわかりませんが、

呪いの成功を喜んでいたのでしょうか。


次の日も、修学旅行が終わっても、

彼女たちは見つかりませんでした。


みんな、悲しがり、気味悪がり、

そして、怖がりました。

でも、表向きはみんな特に変わりませんでした。

修学旅行か終われば受験モードです。

無関心を責めることは私にもできません。


でも、私は、A子に不信感をもちました。

なので、友達の友達くらいの子には

A子に気をつけるように伝えました。

なぜそんなことを言うのかというので、

A子が行方不明の彼女達の髪を拾い、

メパエム様の儀式を行っていた事を伝えました。


私が驚くほどの速さで噂は伝播しました。

守護天使メパエムはこの頃から

メパエム様になったのです。


メパエム様は守護天メパエムより

ずっと強力です。

そこに()()と誰もが感じられるほどでした。

冷たい風が、嫌な耳鳴りが、不幸な事故が、

ありとあらゆるものがメパエム様となりました。


A子は私を恨むでしょうか。

その後に起きたことは想像に難くないでしょう。

そして、A子がどうするのか。


ここに、A子の「聖櫃」を持ってきました。

これがなければA子は私の髪を手に入れても

どうすることもできやしません。

それどころか、守護天使がそばにいなければ、

霊感の強いA子は()()()です。

だって、自分でそう言うお話にしたんですから。


A子は「聖櫃」を持っているふりを

するかもしれませんね。

だから、私は、昨日ちゃんといったんです、

みんなの前で、ちゃんと、

「メパエム様とかくれんぼでもしているの」って。

…A子は必死にメパエム様を探しています。

以前はそばにいると言えばすんだのに、

彼女自身ですら、「聖櫃」をメパエム様の

拠り所にしなくてはならなくなった。

メパエム様はもぅ、制御できないのです。


私ですか?

私は何もしていません。

A子の噂だって、みんなのせいですから。


私がしたのは、

A子が空港のトイレで興奮して

意味不明な呪文を唱えているところに、

行方不明になる二人の生徒を案内して、

「気をつけた方がいい」といったことと、

A子が二人の髪の毛を

使っていることを教えただけです。


バスでイジケているA子を励ますために、

A子の力がいかに強いかや、

守護天使メパエムのことを話しただけですよ。

周りには聞こえていたかもしれませんが。


あぁ、「聖櫃」を体育の授業中にA子の

制服から抜き取ったのは私の罪でしょうか。

でも、「聖櫃」っていっても…

はい、そうですね、やめておきます。

このベールを剥がしたら私が困りますから。


あと私がやる事は、

非通知でA子に電話することです。

「もぅ、いいかい」ってね。


――――――――――――――――――


とても、素敵なお話でしたわ。

ありがとうございます。


ふふ、A子さんはずっと終わらない

かくれんぼをしているのね。

いいえ、そうね、

A子さんだけじゃなく、このお話のみなさんが、

自分が()だと勘違しているのね。

「もぅ、いいかい」の合図で

自分が隠れる側だと気がつくのは、素敵ね。

だって手遅れだもの。


えぇ、もぅ大丈夫ですよ、

その、「聖櫃」私が()()()()しておきます。

そんなに青い顔をしなくても大丈夫ですよ、

だって私、はじめに言ったでしょう。

私は、笑ったり、疑ったりしないって。

そして、責めたりもしません、

責める必要なんてないでしょう?

あなたは()()()()()()()


さぁさ、もう、お行きなさいな。

え?どうして助けるのか?

助けているわけでもないのですけど…

私達「お友達のお友達」ですもの、

ね?そうでしょう?


広く浅く、狭く深く。

形を整えて、より歪に。

そして、いつかあなたのもとに

帰るかもしれないお話。


えぇ、たしかに、承りましたわ。

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