76話 泉の女神と誘拐犯の手口
やっぱり無理だった。同じ場所から進んでるようで進めてない。どうしたもんか。マツは洗濯してるから邪魔しないように……ん?
「これ池じゃなくね?」
真ん中辺りがブクブクしてる。生き物の可能性もあるが、かなり澄んだ水だから居たら見えるはずだ。つまり、あそこから水が湧いてるので、ここは池じゃなくて泉だ。
……だからなんだよ。何も変わらんわ。
「適当に木の枝でも投げ込んでみるかー」
ボスでも出てきてくれたら嬉しいな。
ポチャン
〈あなたが落としたのはこの金の枝ですか? それともこの銀の枝ですか?〉
わお、よくあるあれじゃんか。そういや、あれって泉だったっけ。泉の女神さんちっす。
「俺が落としたのは普通の木の枝です」
〈正直者のあなたには金の枝と銀の枝を差し上げましょう〉
テレテレーン♪ 俺は金と銀の枝を手に入れた。やったぜ。
他にも色々ぶち込んでやろう。キャシーちゃんのナイフはこわいので出番の少ない今剣にしとこう。
ポチャン
〈あなたが落としたのはこの金の短刀ですか? それともこの銀の短刀ですか?〉
淡々としてるなー。機械みたいだ。
「普通の短刀です」
〈正直者のあなたには金の短刀と銀の短刀を差し上げましょう〉
…………なぜかものすごくむず痒い。虫が肌についてる感覚。今は裸エプロンならぬ、裸外套だから下から入っちゃったんだろう。脱いじゃおう。
「よっと」
「ご主人様のえっち」
「ならこっち見んな」
洗濯してると思ったらこっちを凝視してきた。流石にまずいだろ。てか運営も下着をデフォルトでつけてくれてばいいのに。
泉の女神は消えているが、むず痒さは拭えていない。きっかけは短刀を受け取った時だ。……つまり短刀に何か仕掛けられている?
「【魔眼】、ついでに【浮遊】」
ログアウトすると切れちゃうから忘れとった。常につけといて育てなきゃ。
「なんじゃこりゃ?」
短刀からすごい魔力の糸みたいなのが巻きついている。というより、この短刀自体が糸でできているみたいな感じだ。
先程の枝も見てみる。……短刀程じゃないけど糸が。泉の女神を問い詰めてみようか。
ポチャン
〈あなたが……〉
「どういうこっちゃ! これ! パチモンだろ、返せや!」
鎌をかけるのが交渉術の初歩だ。まずは勢いに任せた恫喝まがいの追求をしてみる。
「フェッフエッ、もう気づいたのさね。よくぞ見破ったのさね」
いかにも魔女って感じのローブを着た皺がれた声の人がどこからともなく現れた。口ぶり的にこいつが犯人らしい。……【魔力感知】くん、生きてる〜?
「ここに閉じ込めて、何が目的なんだい?」
「そうです! 私、ずっとここから出れなかったんですよ。あと、ご主人様はいい加減外套着てください」
おっと、失敬。なかなか爽快感があって忘れてた。露出狂の人がハマる理由が分かった気がする。露出狂になるつもりは微塵も無いけど。
「お連れが魔王様の城で待っているさね。案内するから着いて来てほしいさね」
怪しい。俺知ってる、そう言って誘拐するんだよな。……具体的なことを聞いて判断しよう。
「具体的に連れのことを言ってみなよ」
「人間の子供二人とその他だね」
ネアは子供判定か?
「その他は?」
「吸血鬼と魔人さね」
どっちも心当たりは無いから嘘確だ。敵認定!
「マツ、やっちゃえ!」
「お任せ下さい!」
イッちゃってる笑顔で突入していくマツを見届け、泉に潜る。
「ビバボブブビバベベバ!(今剣返せや!)」
あの金と銀のやつは偽物だ。あの魔女風のやつが仕組んだに違いない。ぜってー取り返してやる!




