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8 ゲームタイトル

「はあ、はあ、はあ、疲れた。やった……!」


 女神だったものは動かない。刀の一撃が通じた手ごたえがあったので、即死効果が発揮されたと思いたい。


 「いやいや、油断は禁物だ。あの人ゲーマーっぽいからな」


 アンリはウィンドウを開いた。一旦セーブしてから、タイトル画面に戻るというボタンを押す。


 このゲームのタイトルは『ブラッディ&コールドムーン インフィニット・ダンジョン・エトセトラ』である。何だかおどろおどろしいというか、ダークファンタジー調のクラシカルなスタート画面がウィンドウ上に表示された。もちろんアンリには何の変化もない。

 このタイトル画面はやはり見たことがあるな、とアンリは思った。異業種交流会で、男性にスマホの画面を見せてもらったのだ。名刺すらも交換していない、ただの立ち話なので、その一度きりであるが。

 開発者の、ゲームについて熱心に語る顔を、ふと思い浮かべた。


「デュフフ、このゲームは赤い月陣営と銀の月陣営の永遠の対立をテーマにしていてですねえ、めちゃくちゃ強くなれるというのがウリなんですよ。まあほとんどのユニットはすぐ死んじゃうんですけどね、デュフフフ」


 今度会ったら、こいつもぶっ殺してやろうとアンリは思った。


「ゲームバランスまでぶっ壊れてないことを祈りたい……ゲーマーがガチで作ったゲームの難易度なんて想像できない」


 アンリはあまりゲームに詳しくなかった。有名なタイトルを、友人に誘われるがままにインストールして、流行が終わったら次をダウンロードする。消極的なのは、プレイ自体が得意でないというのが理由だった。アンリは就職先を考えるときも、ゲーム関係は真っ先に外した。自分のようなライトユーザーではアンテナが低く熱意もなく、新しい事にチャレンジできなさそうだからだ。一応アンリは、PCゲーム黎明期から存在しているダンジョン探索RPGに、根強い人気があることは知っている。


「さて、レベルはどれだけ上がったかな……ん?」


 女神の残骸がグネグネと動き出したように思えた。それは一つの塊に戻ろうと、細かい破片がつなぎ合わさるように大きくなっていった。


「まだ倒してなかったのか! あれ、即死判定は頭部だけってこと?」


 刀が刺さったままの女神の頭部は動いていない。体の細かい断片全部を斬って回らないといけないのかと、アンリはげんなりした。

 ほとんどの物資も壁も床もないこの吹きっさらしの部屋で、これ以上どうやって戦えというのだろうか。

 アンリは開発者の顔をもう一度思い浮かべて記憶し、絶対に小一時間ほど正座で説教してやろうと決意した。

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