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7 即死効果付きの刀

 あの刀は有効かもしれない、とアンリは考えを心の片隅に置いておく。下手に切りかかっても折られるだけだ。そもそもアンリは刀を振り回したことがない。真剣は重いと聞くが、先ほどまで使っていた大斧ほどではないと思いたい。


 床にサッと着地し、刀を手に持つ。溶岩がバシャッと広がって飛んできた。しっくり手になじむ。鞘に入ったままの刀を持って走る。溶岩なんて、強化してあるとはいえ、裸足ではとても触れられない。自分のかけたバフの防御力とアーマースキルを過信することはできないのだ。

 溶岩が宝箱に入っていた武器類を覆うように掛かる。


 刀は意外と長かったので、引きずるように柄を持ってステンドグラスまで走る。重さよりも長さがネックで使いづらいが、何となく自分の熱に呼応してくれているようだ。

 ピアノを味方に出来たのだから、他の物品にも出来るのだろうかと集中すると、また何かのスキルか魔法と通じたようで、刀がひとりでにフワリと舞い始めた。


「一緒に戦ってくれる?」


 アンリが問うと、軽やかに刀が空中で踊った。鞘が抜けて後方に控え、長めの刀身が現れる。青みがかった輝きが美しい。他の武具とは違う特別なものをアンリは感じた。

 ピアノの演奏もアクティブで、心なしか自分を応援してくれているように思えた。


 刀が青白い光を振りまきながら、女神の背後を高速で飛び回り、斬りかかろうとする。

 女神が手を伸ばすと捕まらないように距離を取ったり、刀身を絡めとろうとする髪の先があればすぐに切り離したりと隙がない。詠唱も妨害してくれているようだ。あの刀はいつまで動けるのだろうか。拮抗しているようにも見えるが、斬りかかれないということは、出来ないのだろう。


 アンリは部屋の調度品に近づいた。大きな美しい飾り棚に手を触れるとバタリと扉が開いた。中にはポーションや薬品類がぎっしり詰まっていた。

 そうか、部屋の中の物は全て持って行って良いということは、探せばアイテムもあったのか! 勇者ってそういうものかもしれない、とアンリは嘆息した。


 女神から殺傷力のある衝撃波が飛んでくるので、アンリはあわてて避ける。


 ガシャアァァァン!!


 棚に並んでいたガラス瓶が、女神の攻撃でかなり割れてしまったが、とっさに手に取った豪華な香水のようなものを鑑定する。するとHPポーションと結果が出た。

 ところが栓を開けて呷っても、HPが少しも回復する様子がない。


「なぜだろう? MPはどうかな」


 床に散乱した瓶の中からMPポーションを探して取り、一旦避難する。ついでに床に散らばるガラス片に熱を込めるが、これはアンリに殴り掛かろうとした女神のほうに飛んで行かず、アンリの周りを回っている。守ってくれているつもりだろう。


 走り回って衝撃波と物理攻撃を避けながらMPポーションを飲む。器用になったなとアンリは思う。普段の彼女なら、コーヒーを飲みつつ駅まで走り、提出する課題も同時に取り組むようなマルチタスクは出来ない。

 MPポーションを一口飲むと、きちんとMPが回復し、だるさが消えた。完全に回復するまで待つ。


 アンリはグネグネの長い髪が絡まりつつある女神に、右の手のひらをかざした。


「メテオ!」


 魔法名は違うだろうが問題ないだろう。火魔法の上級だと思ったが、今なら撃てるような気がする。オート戦闘はぜひ仕事をしてほしい。


 ドゴォォォォォォォォン!!


 部屋の壁をあらかた破壊しながら、大人が抱えるほどの大きさの隕石が落ちてきて、女神を押しつぶし、壁に叩きつけた。隕石は床のほとんどを抜いて見えなくなった。アンリも吹っ飛ばされたが、刀もうまく隕石を回避してくれたようで、アンリの元に戻ってきた。鞘も離れて付いてくる。

 熱のこもった刀を両手で握りしめる。先ほどよりも軽く感じる。


「たあっ!」


 MP切れでフラフラになりながらも、アンリは声を張り上げる。叫ばないと失神しそうなほど視界が霞む。メテオでぐちゃぐちゃになった女神の元へ飛び、青い刀を振り上げた。いつの間にかピアノのメロディーは止んでいる。


 青白い閃光が煌めき、かろうじて残っていた女神の残骸に突き刺さった。

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