6 ピアノの音色と共に
グランドピアノの突上棒で開いている大屋根に上から斧を叩きつけ、バキバキと本体を壊す。ピアノは絶叫するようにがむしゃらに鳴った。すぐに音楽がパタリと止まった。
「生き物だったの!? コレ」
アンリは少し後悔したが、無音になると身体が軽くなったように思えた。
「人間の裏切者ぉぉ!」
後ろから襲い掛かってくる銀色の女神に、ウィンドウのコマンドで炎槍の魔法であるイディオーを連打しつつ、ピアノにごめんねと触れる。ぱっと身体が熱くなり、ピアノに伝わった。まただるさを感じる。
するとグランドピアノが時間を巻き戻したように修理され、先ほどとは違い、勇まし気な曲を奏で始めた。
「許してくれているのかな? ありがとう」
アンリは身体が温かくなり、自分の思考や身体がさらに動きやすくなったように思えた。このピアノは場を管理するようなスキルを持っているのだろうか。あまり自分には魅了やデバフが掛かっていないと女神が言っていたが、影響下にあるのかもしれないとアンリは口を引き結んだ。
ピアノと通じ合ったのは何のスキルか魔法だろうか。疲れたのでMPを使ったように感じられるが、ウィンドウを見てもどの技能が使われたのか分からない。
ドロドロと全身が溶けた女神が緩慢に髪を広げ、アンリの手を捕まえようとした。アンリはMP回復のため、いったん魔法を撃つのをやめて斧で迎撃した。毒や麻痺の状態異常を付加するスキルがあったら適当にお願いね、とオート戦闘システムに命じることも忘れない。またウィンドウが消えるが仕方がない。
女神は両手の爪を伸ばしてアンリに突き刺そうとし、彼女はそれを大斧を振り回してたたき切ろうとする。斧の柄がひしゃげてしまった。
数度切り結ぶ間に、女神がアンリの両足を、髪を巻きつけて捕まえた。そして髪を操ってアンリを振り回し、後ろ上方の壁に叩きつけようとアンリをぶん投げた。
アンリはすんでのところで空中で回転し、壁にトンっと足をつけて着地した。
「状態異常耐性があるのかもしれないけど、そういう攻撃は避けられているな」
床を見下ろす。女神は杖を出し、魔法の詠唱を始めている。散らばった宝箱の残骸の中心に、女神に最初に出された武器類が、まだ無事に並んでいるのが見える。
鑑定スキルを発動する。
「んん?」
武具のうちの一つに、即死効果ありと鑑定結果が出る。
長く立派な鞘付きの刀が、他の様々な武器に混じって鎮座していた。