64 初ダンジョン
「暗くて不吉な空気感。ここがいわゆるダンジョンか。敵認定されている雰囲気がビシビシするな」
アンリは崩れそうな土壁で造られたダンジョンの一角に転移して来た。動かずに辺りの状況を確認し、独り言を言う。森で感じていた居心地の悪さに拍車がかかり、不安を覚える。
背後に出入り口として使える黒い渦巻きがある。ここに入ればもう一度、森の樹の洞まで転移できる。先ほどアンリが置いた銀貨は無くなっていた。何度も必要らしいので、次も用意しておかなければならない。正規の出入り口ではないからだ。
ダンジョンに入ってから、湿った土臭い匂いがする。土壁に手を当ててみると、硬くてすぐに砕ける様子はない。古そうだがしっかりしている。所々模様のように凸凹があるが、目印になりそうなほど目立つ傷や汚れはなさそうだ。
周囲は一歩先がやっと分かる程の明るさなので、アンリは夜目スキルを発動する。少し先を見通せるようになり、アンリはほっとした。近くにモンスターは居ないようだが、先ほどからぞわぞわと寒気がする。単純に気温が低いだけかもしれないが。
「下見はオッケー。一度モンスターと戦ってみよう」
アンリは索敵スキルをオンにしてから一歩を踏み出した。
ダンジョン内ではモンスターを倒すと小金が手に入る。確率で宝箱も出現するらしい。アイテムを持ちきれなくなるか、二時間が経過したら帰る準備をしようと思っている。
長時間探索できるほどの物資を持っていないし、不測の事態があったときに慌てないためだ。
アンリの視界の端に白い三角の矢印と、壁の場所が表示されている。歩いた場所を自動的にマッピングしてくれるようだ。できるだけ地図を埋めながら探索するようにしようとアンリは考えた。
ゲームウィンドウを開くと、より広い範囲のマップを見ることができる。『隠しダンジョン 王家の道 地下一階』と地図のタイトルに表示されている。アンリはウィンドウを閉じて、早足でさらに進む。近くにモンスターはいないようだ。
しばらく歩くと、すぐにT字路にぶつかった。
右側はあまり意味のなさそうな行き止まりになっているので、すぐに左に曲がる。
壁沿いに薄い石製のドアがある。
扉の向こうに数体の邪悪な気配がする。扉は頑丈そうで、殆ど魔力を通さない。相手に攻撃するならば開けなければならないだろう。扉越しに攻撃することは無理そうだ。
アンリはいつでも魔法を使えるように身構えた。
先々のことを考えて、この迷宮ではしっくりくる装備品も手に入れたい。アンリのスキルと魔法は豊富だが、MPが尽きると何もできなくなってしまう。あの刀のような、命を預けられる武器だ。
タイミングを見計らってアンリは重い戸を開けた。
ダンジョンに入りキリもよいので、年内の更新はここまでとなります。
推敲後に更新再開いたしますので、その折にはどうぞよろしくお願いいたします。




