表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/65

62 ゴート芋を食す

 アンリは昼間際の広場を歩く。もう太陽が頭上に掛かり、小雪が降るが暖かい。

 市場には調味料や加工食品が沢山売られている。ボロが掛けられた台車には不揃いの瓶が並び、空き瓶を買うか持っていくと、中身を詰めてくれるスタイルのお店がいくつもある。瓶にはペンキで店名や商品名が書かれている。おそらく酢漬けや塩漬けの類だ。たまに鑑定しながら歩く。蜜漬けの魚や肉などは、どのような味なのだろうか。

 果物や野菜も山のように積まれており、バナナやスウィーティーに似た果物を試してみたいとアンリは思った。

 動物たちも鎖で繋いで売られている。三つ目で耳が五つの狼のように見えるが、まさか食用だろうか。狼はしっぽを振りながら通行人を見ている。ガルルルル、と地の底から這うような声で鳴いている。機嫌が良さそうだからといって、撫でに行く気にはなれない。

 物慣れないので、売られている物がどういったものなのか分からないが、屋台の料理が美味しかったことから、食材にも期待できそうだとアンリは考えた。屋敷のキッチンを借りれば、購入した素材で食べたいものを作れるかもしれない。


 商店や屋台の品物を眺めながらも早足で広場を出た。

 やはり人に攻撃されるようなトラブルはないが、たまに見定める視線を感じてくすぐったい。後ろでも派手な魔法少女風の女性がこちらをじっと見ている。こちらは地味な風貌なのに、何が気になるのだろうかとアンリは思いを巡らす。腕に付けられてしまった悪魔のスペルは袖で隠れているはずだ。


 屋敷とは反対方向の、大通りよりも細く狭い路地に入る。少々埃っぽく、薄暗い雰囲気がする。この辺りはスラムと違って建物が高く、三、四階建ての住宅や店舗もある。埃が舞う様子を照らしながら、細い日光が差す。


 路地に踏み入った早々に誰かに絡まれる。お爺さんの浮浪者だ。ナイフを突きつけられ、賤貨を要求されるが無視して歩く。

 角に野犬や野良猫も見える。狂犬病にも気を付けなければならない。野犬たちはゴミを漁るのに忙しく、こちらに注意を向けずにうろついている。


 襲われたら返り討ちにするつもりで周囲を睨みつけながら歩き、少し広い通りに出た。左手に曲がり、民家が立ち並ぶ静かな通りを過ぎて門に出る。

 城塞のようにがっしりした石の壁に、広めの門が見える。近づくと魔術的な感覚がある。結界を張ってあるのだろう。


「お前、何だ?」


 警備している兵士に槍で止められる。

 アンリはにこやかに応対し、ポーチを開けて木札を取り出し、守衛に見せる。

 うっかりシンシアの札を出しそうになるが、守衛に見せないように奥へ押し込む。


「薬草採りです。冒険者ですよ」


「よし、通れ」


 荷物のチェックなどは無く、簡単に街の外に出られた。石壁を離れると術的な感覚が抜けた。


 こちら側には畑や牧場が無く、広い草原にうっすらと雪が降り積もっている。正面の目視できる範囲に森がある。冷たい空気を吸い込み、アンリは遠くに見える森に向かって歩き始める。

 今日はなぜか人の視線が気になった。大きく伸びをする。

 自分の木札をポーチのベルトに紐で括り付けた。これでシンシアの木札と取り違えることはない。


「近くの森。ついでに薬草採取と」


 ランダハには、使えそうな薬草を見つけたら採ってくるように言いつけられている。ランダハが調合で使っても良いし、冒険者ギルド前の商店でも売れるそうだ。まずは全量を屋敷に持って帰ってきてほしいらしい。アンリの鑑定力が信用ならないからだそうだ。

 アンリは薬草など分からないが、これから必要な知識だと思うので、鑑定スキルでそれっぽい植物を発見し次第、背負い袋に入れて帰るつもりだ。

 今日の目標は地下迷宮への入り口の発見、そして下見だ。初めてなので、無理せず夕方までに引き揚げる予定でいる。迷宮は隠されているが、ランダハに見つけ方を教わってきた。


 お腹が空いたので背中の麻袋からゴート芋を一つ出した。歩きながら水魔法で洗い、火魔法で熱を通す。危ないのでオートにやってもらった。オートは器用に、宙に浮かせた芋を柔らかくなるまで十分ほど焼いてくれた。

 アンリは途中で二つ、芋を追加した。いい香りが周囲に広がる。


 食べられるように調理したゴート芋の粗熱を取ってかじりつく。

 なかなか美味しい。甘くない南瓜のような味だが、ほんのりとハーブのような香りがする。塩やタレが欲しくなる。一般的な調理法が気になるので、あの店主の食堂に食べに行っても良いかもしれない。

 水筒の水を飲みながらさらに歩く。


 草原には動物が生息しているらしく、たまに小さな兎が飛んで逃げて行く。大型の魔物もいるので要注意だとも言われているので、そのような経験値になる生き物を探しながら歩く。


 離れた茂みがガサリと動いたので雷の矢を放ったが、近づいてみるとスライムだった。ちょっとがっかりする。

 仕留められた金色のスライムは溶けるように消え、代わりに黒く錆びた鉄の指輪を残した。錆びついているのに不思議な光を放っている。

 指輪を布越しに手に取って鑑定したが、失敗してしまった。アンリは指輪を背負い袋に雑に放り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ