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59 出発

「アンリ、その恋文のスペルを外したければ、善行を積んで見放されれば良いんじゃない? なんたって相手は悪魔だからね! アハハハハ!」


「私、善行しか積んでないじゃん……」


 言いながらもアンリは項垂れる。自覚はあるようだ。


「それこそ妖精髪のお姫様を救出したり、勇者の付き人として魔王を倒しに行くのも良いね!


 あ、あとこの屋敷に食料や日用品を極秘に運んでもらえると助かるかも。王城からの物品は月一回届くんだ。まだまだ備蓄はあるんだけど、食料の消費量が突然増えると賄えなくなるし、勇者が買い出しに行って何かの拍子に連行されるのもまずい」


「それは分かった。私も沢山ご馳走になっているし。じゃあ行ってくるよ。お金は?」


「アンリが自分で稼いでよ。依り代のクロロンを壊したのは君でしょ。毛を一本一本束ねて頑張って作ったのに。あれが無いとボクは外に出られないんだよね、あ~あ」


「やっぱりクロロンはランダハの乗り物だったんだね。

 そうだ、この左腕のスペルを付けた悪魔は、ディスペルで退治できるんじゃないかな」


「それは無理だね。魔石の状態で封印されているから、一回解放しないとね。やる?」


「倒せると思う?」


「危険かな。ボクの力を合わせても勝てないんじゃない? 

 せめて勇者が本来の力を取り戻して、アンリがもっと強くなってから挑戦した方が良いよ」


 アンリは考えをまとめつつランダハに今後の行動予定を伝えた。ランダハは少し開いたドアから伸びるリボンやストールに、前脚を巻かれそうになっている。まだ着替えは終わっていないらしい。


「そっか。じゃあ妖精髪の姫が潜っているダンジョンに行ってくるよ。帰りにできるだけ食材を買ってくる。ローズ姫はまだ無事なの?」


「え~と、ちょっと待ってね」


 ランダハが追いすがる装飾品を蹴散らし、別室へ後ろ脚を少々引きずりながらタタタッと走ってゆく。しばらくして歩いて戻ってきた。なんだか頭を抱えている。


「おかしいなあ。ローズ姫、まだ元気だよ。

 健康で襲われた形跡も無い。『虫』を通して視たら、優雅にティーカップでお茶を飲んでいるよ。周りにも誰か他の人がいたような気がする。

 姫は戦闘能力が無いから消耗しているかと思ったんだけど、たぶん逃げられる安全な場所があるね。

 アイテムを無限に持てる不思議なスキルがあるから、物資を大量に持ち込んでいるのかも。

 あまり急がなくても良さそうだ」


 サビ猫は首を捻っているが、同じようにゲームのシステムで生きているアンリは納得する。


「もしかしたら結構なチートをもっているかもね。まあできるだけ急ぐよ。場所は?」


「幾つか入り口はあるんだけど、今回は街外れの森から入ったら近いよ。その入り口なら隠されていて見張りもいないしね。街中の出入り口は管理が厳しいから無理かな。いざという時の避難通路なんだ。


 迷宮自体は入り組んでいて、とても広大だよ。渡してある『妖精の雫』がローズ姫に反応するから、それで探して。最下層には近づかないこと。


 たぶんゆっくりでいいよ。一月以内にお願い。屋敷の食料もね。キッチン横に麻袋があるから、好きに探索や買い物に使って。

 そうそう、聞かれたら勇者は行方不明だと言っといて」


 アンリは腰に着けているポーチから妖精の雫を出した。透明な小瓶に入ったピンク色の綺麗な宝石だ。虹色に発光している。アンリは瓶の宝石を眺めてから革のポーチにしまった。


「分かった。シンシアは?」


「服の持ち主に返したと言えば良いよ。

 怪しまれないこと。いいね?

 あと勇者に戦闘能力が無いと分かれば、即座に不用品として処刑されてもおかしくはない」


「了解」


 アンリは身支度が整っているので、すぐに屋敷を出発することにした。まだ朝の十時ぐらいなので、今から迷宮に入って様子を確かめに行く。

 ランダハはまた扉の向こうへ、装飾品にぐるぐる巻きにされ、引きずられるように連行されていった。

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