56 プログラミング?
「シンシア、まずは貴女の知っている事、書いてある内容、全て見せてほしい」
アンリはシンシアの手を握り集中する。シンシアはもう一度人型に戻っており、すぐにアンリに組伏せられた。何かスキルを使おうとしているが、アンリと繋がっているのでうまく発動しない。
「止めてくださいまし! 無理やりなんて酷いですわ」
アンリが無表情で、シンシアの手を強く握り直した。
「シンシア、初めて会った時のこと覚えてる? 可愛いドレスだと思ったんだけど。冒険者ギルドに行ったり、広場を歩いたり」
「知りませんわ! 『ペイジの8』、ああもう! 何故か使えないですわ」
「タロットは次の勇者の為のものなんだよね。まだ未完成なんでしょ。まずはそれを完成させよう!」
アンリは『女神の古詩』を構成する要素を、繋がっているエネルギーを通して集めた。
ギャッとシンシアが本型に戻る。最後の、パスワードが書いてあるページ
を開く。
「全ての管理システムにアクセスして、内容を書き換えさせてもらうね、シンシア。
う〜ん、ごちゃついていてあちこちに要素が散らばっているな」
アンリが目を閉じると、広い空間に沢山の文字が見える。プログラミング言語のようだが、文字自体が入れ子になり、3D、縦横奥行きがある配列でになって揺らめいているところが違う。
平面に言語を書くのではなく、空間全体に文字やアイテムが配列され、それがバラバラに動いているのだ。クルクル回っている光も多い。何も知らずに入るとどこかの工場のようだ。
まずはオートの思考を起動する。オートも迷っているかのように様子を窺っている。糸口が無いと分かり、アンリは諦めてオートを切った。
「シンシア、いる?」
問いかけてみるが誰も応えない。何回も話し掛けると、チラリと動く式が一つある。
「これ、SFのパソコン内にダイブするハッキング映画みたいだ……! あと意識の無い人を目覚めさせるために、仲のいい人が内的意識にダイブするストーリー」
ドキドキしつつその式を解析する。シンシアの居場所が絞り込めたと思ったので、アンリはオートをもう一度発動させる。
「シンシア……これか!」
入れ子状の記号を紐解いていくと、沢山の人格データを閲覧できる。
「魂や本人は入ってないな。
ここに魂だけを別の場所へ転送する機能がある。
女神のシステムは、体質、種々のデータ、記憶をコピーするだけだ! 本体は生きているダンジョンなんだね。
シンシアの魂はどこへ……ん? アクセス不可?
輪廻転生済みだって!?」
「アンリ、まだ?」
外からランダハの落ち着かないような声が聞こえた。
「ランダハ! 魂と人格データの二つを見つけたよ」
「魂は!?」
「本人の魂はもう輪廻転生済みだそうだよ」
「ええ〜、それは探せないかも。世界のどこかで、虫や魔物になっているかもしれないなあ」
「どうする? 人格データと容姿だけでも表出させる?」
「そんなの要らない。本当のシンシアだけが欲しいんだ」
「分かった。じゃあこの女神の装置はどうする?」
「ダンジョンさえ維持できるなら、後は好きにして!」
「好きに!? 本当?」
アンリは女神のシステムに向き直る。以後のデザインをランダハに任されたからには責任重大である。
「せっかくだから最高のダンジョンにしよう。そうしよう。タロットは……不完全な上にバラバラだな。このままだと、あまり出力が強くなさそう」
「アンリ? 何か嫌な予感がするんだけど……」
「大丈夫大丈夫。こういう作業は得意なんだ。言語はある程度向こうが合わせてくれるし」
アンリはプログラムと格闘し始めた。ランダハが後ろで何やら騒いでいたが、気にせずコードを書き換え、エラーはオートに任せてプログラミングを終わらせた。




