表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/65

53 勇者の声援

「あ、そうだアンリー」


 木製のツルツルした手すりに掴まって階段を降り、地下室に行こうとしたアンリに、食堂の方からフェニスタが大声で呼びかけた。ランダハとシンシアは既に薄暗い階下に降りてしまっている。

 ランダハ達への言付けかもしれないので、アンリは先にフェニスタの用向きを聞こうと思った。


「何ー? フェニスタ」


 アンリがクルッと後ろを振り向き、降りかけた階段を上って、足早にフェニスタに用件を聞きに行く。

 フェニスタが食堂で本を開いていたが、部屋に入って戸を閉め、隣に座ったアンリを見ると、真面目な顔でこそっと耳打ちした。


「お前死んでね? 女神戦の時とか」


「え? 私? 一度も死んでないと思うけど」


「やっぱり気づいてない? 女神に一度、屋敷で昨夜から今に掛けてランダハに三度、殺されてる」


「はあ!?」


 フェニスタに告げられた内容に驚き、つい大きな声が出てしまう。


「俺はオートセーブのみだから仕組みが分からないんだけど、アンリが死ぬと、何故か時間が巻き戻るんだ。

 前々回は、まだアンリが寝ている朝方に襲撃されて、カラカラのミイラみたいな死体になっていて驚くんだけど、ランダハが『良かった~、シンシアに影響が無かった』と嬉しそうに言うんだ。でも俺とシンシアがすぐに倒れて。

 それから一瞬で、昨晩の解散直後になっていた。何回も暖炉の部屋の、ぼんやり光る花時計を見に行ったから間違いない」


「あーそういうことかー」


 アンリが顎に指を当てて納得する。寝る前にセーブした記憶がある。ロードボタンが無いので不思議に思っていたが、死ぬと自動的に直前にセーブした所まで戻るのだろうか。

 そうするとセーブ用のスロットが四つあるのは何故だろうか。


「毎回ではないよ。今朝は生きていただろ? ランダハの気分とか、ちょっとした隙を狙われるとかあるんじゃないか? 一応、前回は地下室で殺されてたから。今回は妨害して声を掛けた」


「フェニスタは巻き戻っても記憶が連続しているんだね」


「そうだな。女神もシンシアも、それにランダハも覚えていないみたいだが。でももう四周目の朝だ。だから俺、二十時間ぐらい延々とこの本を読んでいるんだよね。この調子だとすぐマスター出来そうだ」


 フェニスタが生気のない目で乾いた笑みを浮かべた。だからそんなに疲れているのか、とアンリは納得した。


「女神戦の時はどうだった?」


「冒険者ギルドに寄ってクロロンちゃんと合流したりせずに、広場から直接女神の所に行くんだ。そしたらあれよあれよという間に巻き戻った。

 服だったシンシアは、ずっとうるさいほどお喋りしてたぞ」


「ルカルラへの告白は二回目だったの?」


「違う違う! 彼女とは今回初めて会ったかな。

 前回は血だらけのアンリだけが広場に立っていて、大鎌も無かった。それで俺に『おはよう。突然倒れたけどどうしたの?』って聞くんだ。

 そしたら奇跡の泉から、白銀の塔が誘うように出現したんだ」


「なるほど。勉強になった。ありがとう」


 アンリは扉を開け、地下室まで戻ろうと歩き出した。もちろんセーブしておく。


「延々とループするのはウンザリだぞー」


 背中からフェニスタの心強い声援が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ