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52 屋敷のお掃除

 皆が朝食を取り終え、アンリがテーブルの片付けをし始める。ランダハは毛繕い、フェニスタは横に置いてあった本を開いてブツブツ言っている。


「フェニスタ? 床拭きお願いね」


 ランダハの言葉とともに、濡れた雑巾がフェニスタの頭上に降ってくる。


「えー、勉強ぐらいさせてくれよ」


「じゃあ皿洗いでもいいよ。その程度、今持っている参考書を読めば、魔法で出来るようになるんだからね! アンリ、やってみせてよ」


「ええ!? 無理でしょ。フェニスタって完全に一から理論を勉強し始めたばかりなんだよね」


「いいから!」


 怒ったような声のランダハに促され、アンリがウィンドウを開いて使えそうなスキルと魔法を吟味する。


「これかな……」


 水魔法のエヴィンを選択する。この魔法は大規模な渦潮を起こすらしい。他は水弾のような攻撃魔法っぽいものばかりだ。風魔法のトルネードと合わせても効果的かもしれない。


「いくよ……エヴィン!」


 リストの渦潮『エヴィン』と竜巻を両方一度にタップする。

 屋敷が吹っ飛びそうなミシミシとした音を立てた。


「皿洗い! お掃除! お願い! 全部一度にやっちゃって!」


 オートの力も借りて膨大な魔力をコントロールする。フェニスタが隣で溺れそうになっているが、全身を綺麗にするように魔力に指示を飛ばす。乾かすための魔法も同時に発動させる。他にも数種類の魔法を使っているようだが、そちらは完全にオートに任せる。


「ぷはぁっ! ゲホッ、ゲホッ!」


「フェニスタごめん。どうかな?」


「アンリのクソ野郎……あれ、屋敷がめっちゃ綺麗になってる」


 部屋のインテリアは変わらず、朝食を食べた後の食器やカトラリー、トレイが仕舞われている。一人ひとりに食後のお茶まで配膳しており、細かい気遣いがうかがわれる。全体に床や天井が磨かれており、クロス類も洗濯済みだ。

 フェニスタが能面のような表情であちこちの扉を開け、他の部屋も確認に行った。アンリ達もぞろぞろ付いていく。階段下の部屋はカーペットが新品のようになり、暖炉の煤や燃えさしも片付いている。二階も同様に綺麗になっており、なぜか扉の建付けまで良くなっている。

 アンリは少し身体がだるくなったのを感じた。やはりオートを多用すると燃費がよろしくない。


「嘘だ、こんな魔法、こんなガキが使えるわけない」


「フェニスタ、そういうとこだぞ。まず使われた魔法の解析から始めよう」


 ランダハがブルブルと全身を震わせてからたしなめるように言った。ランダハも洗ってしまったらしい。


「アンリはそこそこの魔力があるし、これぐらいの規模の魔術を使える人は山ほどいる」


「そうなのか? てっきり凄いとばかり思ったよ」


「もっと上級者になると、毎日決まった時間に掃除魔法が発動して、それが三十分前に起こったことにする、とか出来るよ。いつの間にか綺麗になっているというわけ」


「それは便利そうだな! 当たり前に出来るもんなのか?」


「創造魔法は、全てを一から構築しなければならない部類の魔法だよ。極めれば自分自身や世界まで、自分の考えによって構築できる。ロマンがあるでしょ?」


 ランダハが鼻をスンと鳴らし、顎を上げて胸を張った。毛並みがふかふかになっている。


「いいな! 俺にピッタリじゃないか!」


「ガチャも作れるんじゃない?」


 アンリが話に割り込んだ。フェニスタとアンリから詳しい説明を聞き、ランダハが同意する。


「そのガチャってやつ、名称は違うけど、確かに創造魔法だよ。少ない投資で大きな成果を狙うか、定期的に投資し続けて沢山の種類の成果物を集めるんだ。錬金術も組み合わせることがあるよ」


「それそれ! 俺はそれを作るぞ! そんな感じでお願い!」


「フェニスタ、ふわっとしたイメージでウェブサイトを発注する人みたいになってるよ」


 ランダハが欠伸をした。そろそろ眠くなってきたのだろうか。


「昨日冒険者ギルドで聞いたんだけど、一部の妖精が、金儲け目当てにやってるって噂だね。

 この国では大っぴらにそんな商売出来ないと思うけど。王族に目を付けられたら無料で全部寄越せって言われそうだし、逆らったら処刑コースかな」


「なるほど~、王族ってけっこう怖いんだな。俺、勇者認定受けなきゃいけないのかなあ」


「武力が無いと、間違いなく息のかかった仲間を付けられて監視され、道中のハニトラで飼い殺しコースかな。

 歴代勇者も色々あったよ。今はお勧めしない。だから女神の塔と王城を分けてあるんだ。昔の勇者の希望でね」


「怖えーなオイ! ちゃんと勉強するわ……」


「教えてあげるんだからちゃんと付いてきてね。まずはアンリの魔法の解説だよ。アンリは系統違いだけど、術結果は同じだから。

 あとその本、水創造の初級ね。一滴の水を創造するための呪文だから覚えてね」


「ヒィイィイイイイ! これで水一滴!? 嘘だろ……」


「勉強すればすぐだから。アンリ、魔力使ったでしょ。魔力回復ポーションを地下に取りに来て」


 また食堂の椅子で勉強し始めたフェニスタを置いて、アンリ達は居間横の階段から下に降りた。

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