47 シンシアの過去
なかなかダンジョンに潜らなくてすみません!
はやくローグライクしたいですね。
「シンシア! やった、生き返ったの!?」
アンリがギュッーと手の平の金属製の塊を抱きしめて頬ずりした。とても嬉しそうな様子で頬が紅潮し、いつもの無表情とは打って変わって満面の笑みを浮かべている。
「やったな! おいシンシア、ガチャのやり方を教えてくれないか?」
フェニスタも喜色を漲らせて、目が合ったアンリと呼吸を合わせてハイタッチをした。
「これでやっと僕の無双伝説が始まる――」
しかし『女神の古詩』がベシッとアンリの手を打ち、アンリが尻餅をついて転んだ。彼女は呆然と指から離れた金属の本を見返した。ほとんど痛みは無いようだが吃驚した表情をしている。
「この女も何なのです。全く礼儀がなっていませんわ。わたくしが教えて差し上げますわよ」
「シンシア! 私の事覚えてない? 生年月日は? 本名は? ランダハの小さい頃はどう?」
なおもアンリが塊に質問するが、拒絶するように『女神の古詩』が空中に浮き、周囲の空間に放電する。禍々しい気配が部屋中に広がり、空間の雰囲気が重々しくなった。
「何を言っているのかさっぱりですわ。記憶が無いわたくしを騙そうとしても、そうはいかないですわよ」
「記憶が無い?」
アンリが立ち止まって思案し始めた。
「この意識が始まったのはついさっきから?」
ヒョイと記憶のないシンシアを摑まえる。シンシアが放電しようとしたが出来ない。
「ランダハの屋敷で話さなかった理由は? 口に咥えられる方が普通怒るよね?」
「わたくし、恥ずかしくて恥ずかしくて」
「嘘だね。この間もそうだった」
アンリはシンシアを握りしめ、両手で無理やり本を開いて中身を読んだ。
「私の眷属になったからには私に害を与えられないよ。自由意志は尊重されるけど。
もう寿命を分け合っているから、フェニスタもシンシアも私も、同時に死ぬんだ。分かる?」
「離して下さいまし! そうですわ、わたくしはシンシア・ビジョンですわ。でもアンリが思っているシンシアではないですわよ!」
「それは残念。でも想定はしているよ。中身ちょっと見せてね。
フェニスタは危ないから私の後ろに。眷属同士での殺し合いは出来るみたいだし。一応防御魔法を掛けておこう」
「なんか端末っぽいもんな。設定変えれば動くかな」
フェニスタがアンリの背後からヒョイと顔を出した。雷撃を浴びせられそうになって首を引っ込める。アンリが自分とフェニスタ両方に最高のプロテクト魔法を掛ける。状態異常耐性もだ。
「さあ手術の時間です。これきっとね、製作者も管理者も複数いて、アプリみたいに権限が必要で、バグがあったり、今までのがリセットされたりしたんじゃないかな」
「シンシアの記憶が連続してないのはなぜだろうな」
「複数いるからです」
アンリが管理者権限のパスワードを適当に入力する。エラーが出たのでシンシアに無理やり吐かせようとする。シンシアは答えない。
「シンシアさん。カツ丼食べますか? という冗談は置いておいて、状況に対応して人格を使い分けたりするんだ。対応しづらい事態なら適当な事を言うし、人格の切り替え時には無反応になる」
アンリが古詩のページをワシャワシャと捲る。
「シンシアが対応しないと私たちの残り生存時間も短くなる。フェニスタは戦えないし、私も教えて貰わないといけない事が沢山ある。
シンシア、聞こえているなら返事をして。
以前魔王を倒した勇者は誰?」
「わたくし……ですわ」
「やっぱり!
さらに昔、魔王を倒したのも別のシンシアだね。まあ名前は違うんだけど。
女神は元勇者の力やアイテムを集めて、新しく誕生した勇者に引き継がせるシステムなんだ。
それで一定の命が溜まると、女神の生命を天使の卵として凝縮させ、勇者に賦与するための新しく強力な能力を生み出す。卵が成熟して孵化するとゲームシステムになって女神に取り込まれる。そしてゲームの基になった人格は消滅すると。
ここに書いてある」
「アンリ……頑張って推理しているなと思ったら、話したこと全部、読んだ内容だったのかよ」
「うん。格好よかった?」
フェニスタがガッカリしたように言ったので、アンリも顔を伏せた。




