46 女神の古詩
「ただいま」
アンリが女神の部屋に入る。先程は領域に入る時に、クロロンの精霊魔法による許可のような感覚があったが、今回は壁の隙間から直接入った。もうパスが無くても領域内に入れるようだ。女神が代わったことで、セキュリティも変化したのかもしれない。
「お〜、アンリ、見てくれ!」
床に座って両脚を投げ出している銀髪の少女が、沢山の白い箱に囲まれてグッタリと顔を手で扇いでいる。
「どうかした? こ、これは…!」
「戦利品。このパールのネックレスは天井裏の金具を外したら隙間に挟まっていて、あの白い傘は壁のブロックが一つ外せる場所の奥に刺さってて、なんとこの黒い玉は女神の寝所の枕をほどいたら出てきたんだ!」
「すごいね。そんなのよく見つけたなあ」
アンリもカーペットをペラッと捲る。埃一つ落ちていない。
「だろ? この箱は形状を変えられるんだ。ほれ、ほれ、ほーれ!」
紙製と思われた一メートルの立方体は、宝箱、A4ほどの薄い資料入れ、グニャグニャと不定形の茶色い袋に姿を変えた。
「すごーい。アイテムボックスなの?」
「残念ながら容量は見た通りなんだ。小さくするとその分しか入らない。まあインテリアや引っ越し作業には便利かもな」
「そうだね。ところでフェニスタ、服を借りてきたよ」
「ありがとうアンリ」
フェニスタに服を着せようとしたが、服たちが拒否するように腕に絡みつく。フェニスタを魔法で丸洗いして乾かすと服の機嫌が直ったので、見えない所で着替えてもらう。アンリもシンシアが居なくなった時に一緒に外れていたポーチを回収し、ウエストに付けた。靴は全裸の時からずっと履いている。
「どうかな?」
着替えて大人っぽい雰囲気になったフェニスタが戻ってきた。なかなかワンピースが似合う。清楚でぱりっとしたイメージになっていた。
「ちょっと足元がスースーするな」
照れ臭そうに言うフェニスタと服たちを褒め、アンリは何気なくフェニスタのステータスウィンドウを開いた。
名前:フェニスタ・モーヴ
種族:女神 (イモータル)
所持金:10000000
LV:50
HP:1000/1000
MP:200/200
筋力:50
知力:50
俊敏:50
体力:50
魔力:50
アイテム
E:刀(即死効果あり)
E:服(確率で魅了効果)
E:靴(回避アップ)
E:ベルト(罠回避率ダウン)
スキル
(なし)
魔法
(なし)
「服の効果すごいね。ベルトは……まあ、うん。
フェニスタ、やっぱりお金を吸収してレベルを上げることは出来ない?」
フェニスタがウンウン唸って頑張っても、手に持つ金貨は変わらず光っている。
「純イモータルでないといけないってことか。出来ると便利なんだけどね」
「お金はガチャのためだからな! 自分のレベルを上げても仕方ないだろう。ユニットも増えないし、プレイヤーランキングも関係なさそうだしな〜」
「そうか。そういうゲームだもんね。フェニスタはもう人間ではないから、女神の力を使えるんじゃない?」
アンリはペラリと『女神の古詩』を開いた。フェニスタも横から覗き込む。
「すげー、読める!」
「なになに、『女神システムの管理者登録をお願いします。本機は女神の権能、守護範囲、その他様々な設定を行います。前管理人データのアンインストールを確認しましたので、新しい管理人を指定して下さい』だってさ」
「ふむふむ、管理人といえば僕だな。イテテテテテ」
フェニスタが『女神の古詩』の表面に触れたが電流が走ったように後退った。手を擦りながらぼやいている。
「私のMPとか力を分けたからじゃない? 女神の端末ならフェニスタが使った方が合理的だから、何とかフェニスタを登録出来ないかな」
「ちょっと勝手に触らないで下さいまし! 何でこんなに無作法な輩が多いのかしら!!」
「シンシア!? どこだ?」
「やっぱりそうだろうと思った!」
フェニスタが『女神の古詩』を指差して叫んだ。




