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41 女神の本体とシンシア

 クロロンがピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。


「やった! まさかアンリに渡した服が、本当にクソ女神の本体だったなんて! 冒険者ギルドで聞き込みしたかいがあったなぁ〜」


 アンリの全身が仄かに輝いている。シンシアの名残だろうか。アンリは不思議に思いながら、自分の両手の平を見つめる。


「さあアンリ、天使を渡してもらうよ!

 でなければ死刑だ! 国家反逆罪でね。ボクはランダハだから、犯罪者を指名することが出来る!

 フフ、やっぱり天使の卵は卵のうちに割ってしまわないとね!」


「う〜ん、どういう事?」


「君は何も分からなくていいんだよアンリ。その光をこっちに寄越すんだ。どうせ不死者に出来る事も、関係も無いんだから」


 アンリは反論した。


「関係ある。シンシアはこっちの世界で二番目の友達だから。最初の友はもちろん君だけど」


「はあ? 騙されてただけでしょ? いい様に使われてたのに、それが友達……じゃあ友人であるボクに早く渡して」


「まずはシンシアの話を聞いてからだよ、ランダハ。勇者も証人になってほしい」


 アンリは倒れてしまっている女神の様子をうかがった。アンリは女神の手をそっと取った。なんと美しかった女神は皺だらけの老婆になっている。


「シンシアですか? 女神様。同一人物だったの? なぜ言ってくれなかったのか聞きたいです」


 骨と皮と化した女神がモゴモゴと話し始めた。


「アンリ、一緒に少しでも冒険出来て楽しかったですわ……まさか制止する間もなく勇者の息の根を止めるなんて……眷属化し、塔に来る前にギルドに寄ってあの猫を連れて来るなんて……!

 猫さえいなければどうにかなったのに、なぜアンリは突然都合の悪い方向に進むのかしら……」


「猫ってクロロンのこと? 大事だよ。勇者のチュートリアルをするんだよ」


「居なくても影響ありませんわ! 猫が広場から出ていくのを見かけたから、占いで塔に誘ったのに」


「いや大事だろ。初戦闘で喋ったり、Now Loading画面で走り回ったり、ホーム画面で尻尾をビタンビタンするんだぞ。あと何かあるか? 他は何もないかも」


「勇者も妙なところで勘がいいのですよね……猫が居なければ、勇者を籠絡するなり、アンリを追い詰めるなり、時間をかければどうにでもなったのに」


 女神の肉体がサラサラと壊れていく。


「こちらの体はもう保ちませんわ。

 アンリ、楽しかったですわ。ずっとこの敷地に閉じ込められていたわたくしに、外の世界を見せてくれてありがとう。やはり妖精や精霊から話を聞くだけでは、分からないものなのね。

 最後に『節制』『カップのペイジ』、アンリの良い所にモザイクを」


「シンシア!? シンシアーーー! 逝かないで!

 私ももっと一緒にいたかった! せっかく冒険者になったのだから世界を一緒に回ろう?」


 アンリの全身がモザイクに包まれる。最期に気を利かせてくれたらしい。


「ちっ、コーティングの魔法か!?」


 クロロンが警戒するように飛びのき身構える。


「違うと思う。身なりを整えてくれただけだよ。いつもみたいに」


 アンリはサラサラと砂になって流れてしまったシンシアの手をギュッと握りしめた。


「ん?」


 砂に自分の寿命やMPを伝えられるような気がする。砂の中を手で探ると、何かの塊にコツンと当たった。

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