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38 塔の説明

 アンリとシンシア、フェニスタ、クロロンが並んで喋りながら大通りを歩く。もうほとんど人通りは無い。奇跡の泉の広場まで数分だ。

 街灯もなく暗いので、アンリがウィンドウを開いて照明の魔法を使った。


「えっ、暗いかな? そう言えば僕、こっちに転生してから闇が見通せるようになったよ。さすが勇者」


「へえ。さすがにゃんにゃん勇者。猫みたいなチート能力だね」


「うるさい!」


 夜を暗く感じるのは自分だけだと分かり、アンリはしょんぼりと照明魔法を切った。代わりに夜目をオンにする。シンシアが暗闇で見えるのか分からないが、自力で何とかするだろう。彼女はアンリがうっかり転んで裾を汚そうものなら、烈火のごとく怒りそうだ。


「そういえばシンシアが静かだなぁ。シンシア?」


 返事は無い。寝てしまっているのだろうか。


 大通りの突き当たりを入ると広場に出た。闇夜の中、すでに人影はまばらで、泉の中に銀の塔も無い。今夜は月も出ていないようだ。星々は相変わらず降ってくるように見えて美しい。


 クロロンが泉の縁に飛び乗り、氷の状態を確かめてから氷上に着地した。勇者が落ちた穴は避けて通り、スタスタと凍った泉を歩いて行く。


「寒いから早くおいでよ。肉球が凍りそうだ」


「は〜い」


「今回は塔の幻影無しで行くよ。 勇者、君向けの創造魔法は屋敷の敷地、つまりボクのテリトリーでしか出来ないんだ。女神の居城は領域の上空の、そのまた上空にあるというわけ」


 上空の上空とはどういうことだろうとアンリは思ったが、クロロンの言い方が、なんとなく説明を端折っているように感じられたので、黙っておいた。

 フェニスタがクロロンに問うた。


「屋敷?」


「こっちの話。依代と本体が離れ過ぎていると出来ないってこと。ここは屋敷の居間なんだよ」


「確かにねこワンダーランドのガチャ画面はいつも女神様が出てくるから、わざわざここに来ないといけないということだな。でもガチャの確定演出とか興奮するから毎回見たいな」


 クロロンが勇者の意見に答えた。


「塔が見えなくても女神には会えるよ。塔と内部での体験は勇者と勇者候補向けの接待で、女神は人間側の本当のトップなんだ。王族はただの守護者で、昔からずっと機構が維持されているよ。今はボクが管理してるけどね。

 なお敵対者がこの場に来ると、上空でも泉でも、異空間の最難関ダンジョンが開いて『おもてなし』するようになってる」


「怖っ!」


 フェニスタは眉を顰めているが、自分は挑戦してみたい、とアンリは思った。ただ人間や勇者、ランダハと敵対することになるので渋々諦める。


「さあ銀月の女神の領域に行こうか。 もしかしたら一発でアンリと戦闘になるかもね! きっと女神に恨まれているよ。それはそれで楽しそうだ」


「やっぱ恨まれてるかな。勇者、その刀を貸してくれる?」


「二人ともどうしてそう思うんだ? 女神様は優しくて美しくて最高でほのぼのしているぞ」


「触れられない屋敷と銀月の塔は過去の魔法機構だけど、今回はボクの承認付きの精霊魔法で上空に案内するね。というわけでレッツ行こう!」


 アンリはすうっと体が軽くなるのを感じた。頭上にいつの間にか月が出ており、アンリ達を空へ引っ張り上げる。どんどん小さくなる泉に驚いてアンリは声が出ない。空を飛んでいる。


「ギャアアア――」


 フェニスタが一瞬悲鳴を上げたがすぐに落ち着いた。目を合わせようと思ったが気絶したようだ。

 アンリも塔の幻影を出してもらえば良かったとつくづく思ってギュッと目を閉じた。不安なので軽く声をかけ、勇者から青い光の刀を拝借しておいた。


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