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36 黒猫の正体

 アンリは椅子に座り直し、シギリンゴのジュースを手に取った。

 妖精の髪をもつ姫の安否が気になるが、もう少しギルドに滞在して情報を得たいとアンリは思った。他にあまり手掛かりがないからだ。どうやらリセルナが沢山の情報を握っているようで、猫耳をピクピク動かして喋るリセルナを中心に話題が進んでいる。


 ジュースは冷えてはいないがまったりしていて美味しそうだ。薄い紫色で、よく見ると細かい粒々が混ざっている。アンリが両手で持つ程度に大きなカップになみなみと入っていて、爽やかなリンゴとシトラス系の匂いがする。


「甘い!」


 思いのほか甘味が強く、砂糖や蜂蜜が入っているかのような味だ。リンゴジュースにバナナを加えると近い味になりそうだ。


「シギリンゴのジュースはとっても美味しいニャン!

 種族が違うと味覚も変わるものニャンけど、これは皆が美味しいと言うニャン」


「種族によって味覚が違うの?」


「そりゃあワーウルフとフェアリーと溶岩ゴーレムは食べ物自体が変わってくるニャ。人間は雑食ニャンけど、ニャ―は肉や魚を好むニャ」


 そう言ってリゼットは魚っぽい干物をボリボリつまんでいる。

 アンリもジュースを飲み干すと、なんだか体に活力が溢れるように感じた。

 ステータス画面を開くと、ゼロだった体力が1になっている。アンリはイモータルなので体力の数値を諦めていた。心中で興奮する。


「このジュースはいつもあるの?」


「いや、なかなか入荷しないニャン。希少価値は高いニャ」


 リゼットがカウンターから出してきたスルメっぽい干物をアンリに裂いて分けてくれる。食べようとすると膝の上に大きな黒猫が乗ってくる。ギルドの面々から少しづつ食べ物を貰っていたようで、背中を撫でると少々油汚れでベタッとしている。


「あ! その黒猫、チュートリアルのクロロンちゃん!」


 勇者が気づいて黒猫を指さした。黒猫は頭の飾りを白銀にきらめかせながら答えた。


「ああ、勇者、居たの。お金は集まったかい?」


「やっとな! さあガチャいくぞ!」


「オーケー。この干物を食べ終わってから」


 黒猫の飾りは答弁のためのマジックアイテムなのだろうか。アンリは考えつつクロロンちゃんと呼ばれた黒猫にスルメを半分渡す。齧ってみるとかなり塩味が薄くて柔らかい。スルメではないのかもしれない。


「クラーケンの干物だよ! 大きくて安くて味が良いんだ」


 黒猫がまるで自分が捕ってきたかのように得意げに言った。なんとなくクロロンはランダハとそっくりだ、とアンリは思った。


「ランダハ?」


「何? アンリ。げふんげふん」


 やっぱりランダハじゃないか、とアンリは心の中で毒づき、手に持つクラーケンの干物をクロロンに全部渡した。

※ 猫にスルメをたくさん与えると体に負担をかけてしまいます。

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