34 破壊の大鎌
「なるほど、ステータス表記が変わってるニャン」
リセルナとリゼットが並んで、顕微鏡のような機械で勇者の木札を覗いている。
ここは先ほどの冒険者ギルドだ。
相変わらず暗い室内で、灯りのついたランプが温かい光を放っている。お客さんが数グループ、テーブル席で飲み食いしており、ガヤガヤした雰囲気だ。
ギルド内の顔触れはあまり変わっていないが、エレナムとメリーはもう帰ってしまったようで姿を見かけない。
アンリとシンシアが登録試験のために街に出て行ってから、約二時間ほどである。アンリは広場でざっと自分の体とシンシアを魔法で清潔にし、その間に装備を付け直した勇者と共に来ている。
ルカルラが動揺したためか忘れて行ってしまった大鎌は、フェニスタがマントの端にくるんで丁寧に持って来た。
リゼットが機械から顔を上げた。
「この娘に負けたということニャンね」
「いつの間に!? 僕は一瞬気を失っただけだけどなー」
リセルナがフェニスタに鉤爪が生えた指を突き付けた。
「フェニスタ、人間だけどアンデッドになってるニャン」
「僕がアンデッド? うそだー」
「アンデッドといっても、ほとんど人間ニャから、回復魔法も効くしHPポーションも飲めるニャン。
いざという時、神殿での蘇生だってできるニャ。
見た目でも鑑定魔法でほぼ看破されないニャン。
ただ寿命が増えただけニャ。
恋愛も結婚も問題ないニャ。良かったニャンね」
リゼットがふうとため息を吐いた。
「アンリの眷属化はほとんどデメリットが無いニャンけど、次に眷属を作るときは周囲に気をつけるニャン。
もしイモータルが魔物と一括りにされて、討伐対象になったら良くないニャ。
それにしてもまさかアンリとシンシアがギルドを出てから、たったの二時間足らずで勇者を眷属化、魔族の姫と交戦、戦利品を持って帰ってくるとは思わなかったニャ―」
リセルナがルカルラが残していった大鎌を勇者から手渡してもらい、大鎌に嬉しそうな表情で直接頬ずりをしている。
「こんな逸品、なかなか手に入らないニャ」
アンリはルカルラの大鎌をすでに鑑定している。
『破壊の大鎌 (軽量化、持ち主指定の呪いあり、受け流しスキル付き、技量アップ)』
「もちろん冒険者ギルドに寄付してくれるのニャ?」
リセルナがアンリと勇者を上目遣いで見る。
「しかし呪いが掛かっていますので、他の使い手が見つからないかと思います」
「できれば本人に返したほうが」
リセルナの頬と両手が、呪いの効果で鎌から離れなくなってしまった。
自分がプレイしているローグライクゲームには、アイテムの呪いを消去するスキルは無いはずだ、とアンリは前世での会話を振り返って結論づけた。
呪いを解いて武具を外すことなら出来る、とデュフフが言っていたからだ。
「ニャニャ!? ニャ―の立派な髭が!」
「というわけで、また持ち主に会うと思いますので、それまで預かっておいてもらっていいですか。たしか倉庫機能がありましたよね」
「一人十個までだけどな、あるぜ」
まだ宿に戻っていなかった、傍らでエールを飲んでいるシンと、いまだに水を飲んでいるボルックスが答えた。




