30 VS ルカルラ
アンリは空中のルカルラに飛行して近づいた。
風魔法で煽られてアンリの体勢が揺らぎ、ルカルラの前方に素早く躍り出た。
罠避けの空中浮揚魔法、身体能力向上スキルなども駆使している。魔力を消費するが短時間ならなんとか飛べるようだ。
アンリは青い光の刀を大きくルカルラの胴を薙ぐように振った。避けられても初撃の切っ先がカルラルの大きな翼の片側に当たる軌道である。
ルカルラは大柄で豊満である。赤く豊かな髪を腰より長く伸ばし、褐色の肌をしている。耳は長く尖っており、房飾りや金属を用いた特徴的なピアスをしている。目元に大きめのグリッターが入り、唇は真っ赤で化粧が華やかである。また露出度が高い派手な鎧を身に着けていた。手甲やブーツも金属製で、全体に装備が整っている印象をアンリは受けた。
背中から生えている紫色の四枚の翼は、ルカルラの姿を覆えるほどの大きさがあり、ゆっくりと羽ばたいている。
片手に薄く広刃の大鎌を持っており、細めの柄と金属の装飾が施されている。
アンリは蝙蝠のような翼を攻撃し、ルカルラの機動力を最初に奪いたいと考えた。
勇者の魔石は地上に置いてきてしまった。戦いながら持ち運ぶには少々大きいからだ。
十分な量の寿命と勇者に必要なだけの力を、アンリは既に指定して魔石に分け与えてある。アンリ本人のレベルが下がってしまうが仕方ない。魔石は輝きを増し、ドクンドクンと脈打つように活動し始めた。もうすぐ変化するだろう。アンリは勇者フェニスタの魔石と根底で繋がっているように感じた。
「あら……人間、勇者の魔石に何をした? 小賢しい」
大鎌を操ってアンリの刀を抑えつつ、ルカルラが眉を寄せてアンリを睨む。まだイモータルだと気づかれていないようだ。
アンリが慣れない空中でふらつきながらも、ルカルラの鎌刃の腹に、両手で握った刀を振り降ろす。大鎌を破壊する意図だったが巧く受け流された。ルカルラの大鎌でのカウンターがアンリの頭部に一閃、しかしアンリは横に躱してルカルラの首筋を狙い刀を鋭く差し込む。
「人間、なかなか強いですね! どこで修行したのかしら?」
「銀月の塔でかな!」
「あの噂に聞く塔ですか。人間の勇者を生み出すという――
こちらも今宵、魔王が誕生しますので、大群をもって攻略したいと思っていますよ!」
ルカルラが腕を広げる。背中の羽が一対、百を数えるほどの蝙蝠の大群に変化した。
蝙蝠たちは鋭い牙をむき出しにし、アンリに殺到した。




