28 シンシアの占い
「なんだこいつ。ちっちゃくていかにも弱そうだぞ」
勇者がヒョイと小人さんを摘まみ上げる。
手の平に乗せられた小人さんはその場でクルクルと踊っている。
誰かが落書きした2Dイラストを動かしたような、雑な見た目をしている。眺めているとブレイクダンスを始めたので、フェニスタは胡乱な目をシンシアに向ける。
「ええ、まあ、他に見つかりませんでしたし。この子なら代金も安そうでしょう? 貴方もやってみません? 一度に三回くらいは占えますから」
「ふん、占いなんて疑似科学だろ」
「勇者の言っていることの方がよく分かりませんわね。妖精は超自然を司りますわよ。反対に精霊が自然現象を好みますわ。未来予知なら妖精を頼るのは当たり前じゃありませんの。妖精の助けを借りなければもちろんランダムなカードが出ますけど」
アンリがまあまあと割って入った。
「常識に違いがあるのは分かった。勇者の言っていることも理解できるよ。
でもフェニスタ、これだけ魔法やスキルがあるゲームの世界にいるんだから、私たちのいた世界と法則も異なるのではないかな」
「まあそうか。何事も否定せず有権者の話を聞けと親父にも言われたしな。じゃあ僕の未来をよろしく」
小人さんのブレイクダンスが激しくなった。アンリは無言で小人さんを見る。ブレて残像が動いているように見える。他の二人も小人さんの力をあまり信用していないのか所在なさげで、勇者の足は貧乏ゆすりをしている。
小人の残像がほんのり光りはじめた。
「いきますわよ。『タロット』、妖精の力を用い、かの者の未来を示せ。できるだけ近未来でお願いしますわ! 三日後か五日後くらいまでが良いですわね!」
シンシアの周りを光でできたカードがたくさんシャッフルされる。クルクルと舞い散るそれは、勇者の顔と全身をふんわりと照らした。カード一枚一枚は大きく、A4サイズほどだろうか。五枚のカードが抜きだされ、勇者の足元に並べられる。象徴的なイラストが描かれ、文様がカードの全体に装飾されている。
「これは『死神』ですわね。メインが死神で、他は説明用のカードですわ。これはカップの5、これは……」
「はぁ!?」
「今回のケースは……『自分ではどうしようもない何かが訪れる』と出ていますわ。ご愁傷様」
「なんだと! 嘘に決まっている。僕は絶対に地球へ帰るんだ!!」
「あ、妖精さんに三回分のお代を払ってくださいませ」
「なんで僕が! ち、しょうがないな。ほれ小さいパンをやるよ。え、足りない? もっとか」
小人さんは勇者に四つもパンをねだり、小さい両手でパンを抱えた。ホクホクした足取りでもたついて帰っていく。あの小人さんはパンで前が見えていないに違いないとアンリは思った。
そういえば日も暮れて辺りは真っ暗だ。人通りも無くなってしまっている。また寒く暗い夜の到来だ。今夜は昨夜と違い、白銀の月ではなく、血のように赤い満月が出ている。ヒュウヒュウと風も強く三人に吹きつける。
「僕は今夜王城で泊めてもらう。街は危ないからな。僕に何かあったら王城も街も大騒ぎになるはずだ。しかし戦闘力のない今は、とにかく安全が一番だ」
「私たちは冒険者ギルド横の宿で、馬小屋に泊まるよ。気をつけて行ってね」
「ああ、またな」
勇者が踵を返した瞬間、アンリの手がフェニスタの腰に伸び、流れるように即死効果付きの刀を奪い、勇者の胴体を後ろから大きく袈裟切りにした。




