25 広場で食事
「いらっしゃいませー、鳥の照り焼きはいかがですか」
「安いよ! 今日は店じまいだからまとめ買いがお得!」
「煎り豆、焼き芋、水牛の串焼き、平パンをセットでどうですか? お嬢さん、お茶も付きますよ!」
広場は夕方の買い物客で賑わっている。アンリとシンシアは屋台で適当なものを買って腹ごしらえすることにした。もうかなりお腹が空いてグウグウ鳴っている。
アンリはなぜアンデッドなのに自身が怪我をすると痛みを感じたり、お腹が減ったり、眠くなったりするのか不思議に思った。むしろ人間の勇者の方が寝なくて良いだなんて不条理である。寿命はどうなのか気になるところだ。
煎り豆や平パンのセットをお店の出窓から頼み、お代に銀貨を一枚払った。座るところが無いので広場の隅で立って食べたが美味しかった。全種類片手で食べられるので、食べ歩き用に作ってあるのだろう。全てが雑に紙製のような袋に入れられており、肉汁が染み出ていた。お茶は変わった味のミルクティーを薄めに作ったような飲み物で、ピリッとしていて美味しい。これも紙のパックに入っていた。こぼれないように注意してそっと開けて口をつけ、中身を飲み干す。
アンリは広場を見回したが、カフェのような店はなさそうだった。野菜や肉、果物、見たこともない食材は沢山売っている。もし料理が出来たなら、見回って食材を買い集めるのも楽しいかもしれない。
「美味しいよ。シンシアは何か要らないの?」
「わたくしは美しく洗濯をしてもらえればそれでいいですわ」
「洗濯か。洗い替えの服がいるかな。あと丁寧そうなクリーニング店も」
「着たままで洗って乾かして下さったらよろしいですわよ! 脱がないで下さいまし……! 先ほど綺麗にしていただきましたわよね? あれをお願いしますわ」
「ああ、あれね。オートさんお願い」
お湯が巻き起こって腰のポーチが勝手に開き、HPポーションともう一つの瓶、消毒薬の中身を少々消費し、シンシアを洗濯した。ついでに温風でサッと乾燥まで完了する。そのまま前方に攻撃魔法の準備を始めたので、アンリはオートモードをすぐさま切る。道行く人がアンリの魔法を見ていたようで、オーッと周りの人々から拍手が沸き起こる。
シンシアの裾を手に取ってじっくり見ると、古そうな生地が元気になっており、ランダハが爪で開けた小穴すらも塞がっている。アンリは若干の脱力感を感じた。
シンシアが惚れ惚れするように言った。
「アンリさん、魔法が凄く上手いって言われません? こんなに精密に四大属性魔法を操れる人は滅多に見かけませんわよ」
「アンリって呼んでくれると嬉しいな。魔法は私がコントロールしているわけじゃないよ。自動だと適切な効果を得られるけど、予期しないことをしでかすので困るよ。あとこういうことが出来る人は他にもいると思うな。例えば勇者とか――」
「皆さん! 夕方の買い物にいらしてる皆さん! 聞いてください! 私は勇者です! 銀の月に選ばれた勇者です! 皆さんの勇者です! 最初で最後のお願いに参りました――」
広場の真ん中、奇跡の泉付近に人だかりがある。その中央から、あの勇者が演説を始める声が響き始めた――




