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24 冒険者登録

 フリフリとリボンが踊っているシンシアと共に、アンリは冒険者ギルトのメンバー申し込みをする。


「まずはこの特殊な木に住所、氏名、年齢を書くニャン。署名のようなものなので言語は問わないニャン。まあまあ貴重な物なので注意してニャ」


 アンリは手元の木片の枠内に、ガリガリと硬いペンで引っ搔くように、地球の文字を記す。スラムの女の子の記憶は辿れなくなってしまったし、ギルド内の文字もアンリには読めない。言語を問わない理由は、見るからに多民族が入り混じった世界だからだろうとアンリは推測した。住所など分からない箇所は適当に埋めた。きっとこの体の前身であるスラムで生きていた女の子は十歳ほどであるし、住所も王都近辺のどこか、名前は月華アンリで良いだろう。


「なお嘘つくと消えるニャン」


 氏名だけが残ったので、空欄で提出する。まさか地球の自宅の住所を書くわけにもいかない。仕方がないが、シンシアもアンリも確定しているのは名前だけだ。シンシアも正確な年齢が分からないそうだ。

 それだけだニャン? と不審がるリゼットに、アンリは木片を二つ、向きを正して手渡した。リゼットは文字が書かれた木片を裏返し、茶色と焦げ茶色の木目が浮いているだけの何も書かれていない面に、ジューッと音がするグリッターのように光る丸いスタンプを押した。煙が出るわけでもなく、木片に複雑な文様が転写された。リゼットはそれを二つ作った。


「次は?」


 アンリが問うと、リゼットが縦に細長い瞳孔で、アンリをじっと見つめた。ランプの光で使い古されたメイド服が、ぼんやり照らされる。


「次は適性テストなんニャけど……アンリ、シンシア、二人で働けるニャン? 王都近場の初心者向けダンジョンに潜って、お宝を一つでもゲットしてくるのが良いニャン。強いモンスターと戦って、売れる素材を持ち帰ってくるのも良いニャン。ただ死なないこと、それが合格条件ニャン。なんなら成果なしの手ぶらでもしょうがないニャ」


「分かりましたわ! ダンジョンはどこにあるのかしら?」


「ダンジョンならどこでも良いニャン。幾つかあるので協力して探すニャン。街で調査しても良いし、冒険者に聞いたりしても良いと思うニャ」


 アンリが挙手した。


「私王都の中で、結構難易度の高そうな、ダンジョンっぽい場所を知っていますよ。夜しか出てこないんですが、ボスが強くて強くて」


「まあ、行ってみましょう。二人で倒せるかしら?」


「どうかなぁ。即死装備が複数欲しいかも」


 リゼットと話を聞いていたリセルナが声を上げた。


「待ってニャン!? そんな話聞いたことないニャン。即死装備が必要な難易度って相当ニャよ。それこそ御伽噺か、A級冒険者のフェニスタが触れ回っている奇跡の塔みたいな存在ニャン。そんなの眉唾ニャ! フェニスタ、あんなに良い奴だったのに、突然変わっちゃったニャ―ン……」


 落ち込み始めたリセルナとリゼットを励まし、アンリは光るスタンプが押された先ほどの木片を、二枚とも受け取った。木片に穴が空いているので紐を通せるのだろう。なくさないようにポーチにしまう。


「それは一定時間、記録した人物の行動ログを作ってくれるニャン。とりあえず三日間ニャ。さあ行ってらっしゃいニャン!」


「新年パーティーは三日後ニャから、それまでに帰ってくるニャン。あと隣の宿の馬小屋は、冒険者なら好きに泊まって良い場所ニャン」


 とっくに変装魔法が切れて普段の見た目になったフェニスタのパーティーメンバーにも手を振られながら、アンリとシンシアは冒険者ギルドのドアをギィと開けた。外は鮮やかな夕焼けで雪もちらついていたが、シンシアがいるので暖かい。


「そうだ。これ初冒険のお祝いよ。頑張ってね!」


 エレナムや他のお客さん達が集まって、銀貨を五枚渡してくれた。


「えっ、ありがとうございます。何かでお返ししますね」


「いいのよ。登録の時、私たちもこうやって祝ってもらったのよ。冒険者の流儀なの。駆け出しにはこうするってね」


 雪が舞う大通りに出ると、すでにお店が閉まり始めていた。また暗い夜が始まるので、食料を調達して情報を得ようと、アンリとシンシアは広場へ行ってみることにした。

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