22 冒険者ギルド
ギィ、と大きな木の扉を開いて、アンリは白い息を吐きながら冒険者ギルドに入る。そろそろ日が傾いて、また寒くなってきた。着ている服に耐寒性があるのが救いだ。この服はなかなか暖かいのだ。
「お疲れさまでした~」
ギルド内から職員らしき人が出てきて通りへ向かって帰宅して行く。きっと今日のシフトが終わったのだろうとアンリは彼女を見送った。
ギルドの中は木の床、十字の枠がついた窓が幾つか並び、少々薄暗い。地球だったらパブか洋風の呑み屋さんといったインテリアだ。意外と狭い。ハードカバーの本が数冊、カウンターに倒れ掛かるように並べられている。開いている本もあるが中身は白紙だ。煌々とオレンジに輝くランプ、繊細な雰囲気の椅子とテーブル、その上にワイン、マッシュルームのおつまみが見える。グラスは無い。飲んでいる人々がどんな風貌かは暗がりで分からない。真綿のような、ぼんやりと光る丸い物体が幾つか空中に飛んでいる。
「リセルナ! 酒!」
「リゼット! 新しい登録者を連れてきたよ!」
ボルックスとエレナムが大声を出し、別々の用件を奥に伝える。あまりにも息がぴったりで、アンリは何となく吹き出しそうになった。
「はいニャ~ン♪ ボルックス!! ツケを払うまでは水ニャン!」
「はいはいニャ~ン♪ 毎度あり! 新しい登録者ってこの子ニャン?」
メイドの恰好をした背の低い猫娘が二人、奥からこちらへ声を掛ける。水ニャン! と言った方の髪の長いリセルナが、カウンターに水の入ったボトルの底をドン! と叩きつけるように置いた。瞳孔と鼻口元が少々ネコ科っぽい造形である。
リゼットと呼ばれた、ウェーブがかった髪をおだんごに結っているしっかりした雰囲気の猫娘が、アンリをしげしげと見る。
「登録料は持ってきたニャン?」
アンリはゴソゴソと腰のポーチを探るが、お金は一円も入っていない。この世界は金貨や銅貨だったな、とアンリは思い出したが、銭貨らしきものは無かった。
じゃあこのポーション貰うニャン、とポーチから瓶を一つ取られてしまった。サッとアンリがその瓶を鑑定すると『眠り薬(一滴でイチコロ)』と出る。持っていかれたのがMPポーションでなくて良かった、とアンリは胸をなでおろす。MPポーションは万が一、城内でメテオを撃つ時に使いたい。一応平和的解決をするつもりだが、備えくらいはしておきたい。
水を寂しそうにボトルのまま飲んでいるボルックスの隣で、リゼットが錆の浮いた装置に眠り薬を置いて、装置の中を覗き込む。鑑定装置かな、とアンリは考えた。
リセルナが他のメンバーとアンリにも取っ手の付いていない茶色いコップで水を出してくれる。ありがとう、とアンリは返し、喉が渇いていたので鑑定してから口をつける。メリーも木のチェアに座ったエレナムの膝の上で、両手でコップを抱えて水を飲み始める。
「この睡眠薬、ずいぶん高級品だニャン!? じゃあお代としてはちょっと多いから、特別に二人分登録してあげるニャ。その服も一緒で良いのかニャン?」
「え?」
アンリがリゼットに問い直す。
「あ、はい。すみません」
なんとアンリの着ているドレスが喋った。




