21 パーティーメンバーとの会話
埃っぽいスラムの裏路地をジグザグに走って人々を撒き、アンリが息を切らせて立ち止まる。かなり走ったのでもう追手の気配は無い。
一緒に逃げてきた冒険者たちはもう疲れ切って倒れこんでしまっている。巨躯の男が背中に負っていた斧を外し、大の字に地面に身体を投げ出した。耳の尖った女性が周囲をギロリと確認し、どこからか様子を窺っている複数の目線を威嚇する。女の子はなんと背中のツララのような羽で飛んでいる。
「おい、ドーロはどこ行った!?」
「途中ではぐれちゃったわ。あの、バカ!」
どうやらドーロという、紫のローブの裾を引きずっていた男性がいなくなってしまったらしい。確かにあのローブは邪魔そうだ。女の子が袖で涙を拭く。
大柄な男が身体を起こし、立ち上がってアンリに声を掛けた。
「お嬢ちゃん、俺はボルックス・ディ。このハーフエルフの女性はエレナム・テキーラ。このちっこいのはメリーだ。さっきはぐれた魔法使いはドーロ・ノノフィ。ここにはいないが斥候のシン。俺たちは訳ありばかりが集まったA級パーティーで、あのフェニスタ・モーヴをリーダーとして活動していた。フェニスタは優しい奴で、あんな事を言うはずがない。銀月の女神だかなんだか知らないが、いつかぶちのめしに行きたいと思っているぜ」
アンリは返答した。
「よろしく。私は月華アンリです。なんだかうまく言えないけど、勇者フェニスタを蹴ってしまってごめんなさい」
ハーフエルフのエレナムがアンリをフォローした。
「いいのよ。もしかしてあなたも人間じゃないのかしら? でも人間に見えるわよ。大丈夫、腹が立つのは皆一緒だわ。それにA級をのしたんだから、むしろ自慢して良いわよ」
「確かに、フェニスタは棒立ちで一体どうしたんだろうな」
アンリはフェニスタの変化に心当たりがあるが、言おうか迷う。どのように説明すれば、ボルックス達に考えてもらえるだろうか。それに確証は全くない。
「銀月の女神に選ばれたとおっしゃってましたよね」
ボルックスが不安そうな声で答えた。
「フェニスタが言ってたな。ただの都市伝説だろうと思っていたが、まさか本当に実在していたとは」
「昨日酒場で全員で打ち上げをして、和やかに解散して、フェニスタだけ今日のクエストに来ないと思ったらまさかのアレよ」
話しているところにドーロ・ノノフィがフラフラ走りながら現れた。木の杖をズルズルと地面に引きずっている。
「ふぇーん、僕を置いていくなんて酷くないかい? 殺されるかと思ったよ。サーチ魔法で位置情報を特定して、やっと追いついたんだよ~」
「お前ワーウルフなのに一番足遅いのな」
「人間と変わらないよぉ~」
皆に笑顔が戻る。ともかく仲間が無事で良かったとアンリは思う。
「ところでアンリ、君はどうするの?」
「冒険者登録をしてから、三日後の王城での新年パーティーに行ってみたいと思ってます。庶民にも無料で料理が振る舞われるらしいので」
アンリはペロッと舌を出して、手で軽くドレスの裾を動かした。
お姫様と王城の状況によって何をするかは自分でも分からないので、ボルックス達にはこれぐらいの説明で良いだろう。心配されてしまいそうだし、敵対する流れになっても困る。
「俺らも行くつもりだけどな。毎年のお祝い事だし。しかしフェニスタが勇者として王に認定されれば、儀式やお披露目もあるだろう。ちょっと行きづらくなったな。人間優先主義者が元気になりそうだ」
「あ、でも、冒険者登録くらいなら手伝ってあげられるわよ。一緒に行きましょうか。私たちは変装魔法があれば大丈夫よ」
「変装魔法を使えるのは斥候のシンなんだ。さっそく呼んでみるね!」
ドーロがピューッと細長い笛を吹く。しばらく雑談していると人相の悪い男が現れた。やはり冒険者ギルドで見覚えがある顔だ。
「おい、大変なことになってるぜ。広場で……え、お嬢ちゃんが冒険者ギルドに行って登録? まあ大丈夫だろ。ホイホイホイっと」
シンが指輪のついた手をかざすと、パーティーメンバーが地味な雰囲気になる。風景に溶け込むようだ。
「お嬢ちゃんは人間っぽいし、このままで良いな。はぁ? イモータル!? 珍しいなオイ! じゃあアホに文句言われたら言い返せ。中々身なりも良いしな」
シンはアンリのドレスを目視で上から下まで検分しながらニヤニヤと笑った。アンリもきっちり頷き返す。人相は悪いかもしれないが、笑った顔は悪くないとアンリは感じた。
アンリとパーティーメンバーは来た道が分からなくなってしまっていたが、シンのだるそうな口調の道案内によって、皆で冒険者ギルドの玄関までたどり着くことができた。変装魔法のおかげか、道中で誰にも絡まれたりせず、アンリは心の中でほっとした。




