19 勇者との初接触
アンリは勇者を鑑定しようとしたが、うまく出来なかった。足元にこっそりウィンドウを出して、勇者のステータスを表示してみたが、名前すらも見ることができない。
先王やランダハの名前をアンリが確認でき、文字列を変更できたのは、先方の合意があったからなのだろう、とアンリは思った。
そういえばこの世界に来てから、アンリは武具とアイテムを鑑定し、戦闘に役立てきた。しかし反対に女神やランダハのような人的存在を鑑定することは出来ていない。ステータスが分からない理由は、自分がローグライクRPGを今プレイしているからだとアンリは感づいた。初期のローグライクならば、ダンジョンで出てくる未鑑定の武具や道具に対する鑑定魔法やスキルはあるが、相手のモンスターやNPCのステータスは見られない。このゲームはその手のタイプなのだろう。シンプルなスマホゲーなのでその可能性は大いにある、とアンリは考えた。
そうすると、ランダハがアンリの種族や名前を看破したのはなぜだろうか。またドレスに鑑定阻害効果がついているのもアンリは気になった。彼女は一応、自分に鑑定スキルがあるかどうか確認しておく。
アンリは自分のステータスのスキル、魔法欄を確認した。
ステータス
名前:月華アンリ
種族:イモータル
所持金:0
LV:1050
HP:5045/5045
MP:3653/3653
筋力:841
知力:4823
俊敏:1536
体力:0
魔力:1288
アイテム
E:ヴィンテージドレス
E:布の靴
E:革のポーチ
HPポーション
MPポーション
睡眠薬
消毒薬
閃光弾
万能鍵
妖精の雫
スキル
汎用スキル
戦士スキル
盗賊スキル
魔術師スキル
永続魔法
火魔法
水魔法
風魔法
雷魔法
スキルと魔法は、黒いウィンドウにくっきりと白文字で書かれている。しかしスキルと魔法の詳細や個々の名称は、カーソルを合わせた時だけうっすらと透ける文字で表示される。
ざっと内容を確認すると、盗賊スキルの中に『鑑定』がある。説明欄には『未鑑定アイテムを鑑定する』とのみ表示される。
アンリはウィンドウを消し、少しだけオートモードを発動した。オート戦闘は先ほど広場で水を掛けられた時、店主に対して戦闘行為をしなかった。やはり賢いAIのようなので、今回も任せてみる。
ついでに四つあるセーブ欄の空欄にセーブもしておく。また戦いたいので、女神との戦闘前のデータは残しておいた。
アンリは自動的に勇者との距離を一瞬で詰め、眼前に飛び上がって回し蹴りを勇者の左頬に食らわした。勇者は後方の泉にガシャーンと派手な音を立てて落ち、アンリからは見えなくなった。
やってしまった、とアンリは思った。後ろの民衆を振り返ることは怖くて出来なかった。