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18 勇者誕生

 アンリが冒険者ギルドの建物の重い扉を開けると、大柄で筋肉質な男性がぶつかってきた。

 スッと横に避け、アンリは扉を大きく開けてゴツゴツした男性に出入口を譲る。


 ドヤドヤと戦士風の男性の後ろからも、紫の裾を引きずるローブを着た骨ばった顔の男性、薄い金髪と白い肌の幼児ほどの女の子、斥候風の人相の悪い男性、紙をほぐしたような質感の髪をした、耳が尖った女性が出口を通った。

 最後の女性がアンリをちらりと見る。どうした、と斥候風の男性が聞くが、急いでいるのか彼らはそのまま通りに出ていった。


「緊急事態です! 奇跡の泉から勇者が生まれました!」


 冒険者ギルドの中から職員と思しき女性の大声が響く。事実ならめでたいことだとアンリは思った。あの銀月の女神が、アンリがランダハの屋敷にいる間に、次の勇者候補を見つけたということだ。

 泉は広場にあり大通りから近いので、アンリも行ってみることにする。


 アンリは広場へ向かう前に、昨夜スラムで亡くなっていた男性にムシロを返却しに行った。男性がいた場所には既に何もなく、誰もいなかったが、アンリはお礼を言ってムシロを丁寧に置いた。そして人攫いや住人に絡まれないよう、気配察知スキルを駆使して急いで広場へ舞い戻った。伸びたステータスのおかげか足も速くなり、殆ど時間は掛からなかった。


 広場は民衆でごったがえしていた。口々に何かを叫んでいるが、奇跡の泉の縁に立っている銀髪の男性が話し出すと、一瞬で静かになった。一体何を話すのだろうか。


「皆さん! 私は人類の希望、銀月の女神様によって勇者に選ばれました!

 女神様は私に装備品と幾つかのアイテムを下さり、ぜひ魔王を倒すようにと私に頼んで下さいました。私はあの美しい女神様の為に働き、人類に安全と平和をもたらします!

 皆さん、ぜひ私を応援してください! 私は勇者です!」


 堂々としたその男性の風貌は白銀のマントと腰の剣、立派な全身鎧、風にそよぐミディアムの髪、全てが輝いている。頬は紅潮し、目は虚ろなようにアンリには見えた。

 勇者の隣には、眉間に白銀の飾りがついた、背丈が一メートル弱もあるグレーがかった黒猫が控えるように座っている。アンリは刮目したが、猫はランダハではないようだった。


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