15 出発
沢山の兵士が荒らした寝室を、アンリとランダハは手分けして片付ける。先王が使っていたベッドは真っ二つに壊され、ライティングビューローの椅子の脚も折られている。照明やシーツ類も破かれている。ランダハはハァとため息をついた。
「思い出の毛糸籠が」
古い沢山の毛糸玉とバラバラになった籠が床に落とされている。
「昔、小さいころ、よく遊んでもらったんだ」
ランダハは魔法で空中に毛糸と籠を浮かせ、鍵しっぽを振り上げて、毛糸と籠を丸ごと燃やしてしまった。
「僕はもうランダハなんだ。これはいらない」
燃え滓に背を向けて、ランダハはぷいと後ろを向いて歩き去ってしまった。
アンリは部屋の掃除を黙々と続けた。
アンリがハタキ掛けを終えた後、屋敷の状態は幾分片付いた。
「コレ僕の得意料理なんだよ!」
とランダハが出してくれた滑らかな雑穀粥を二人で食べた後、ランダハはアンリを屋敷から送り出した。
「この衣装であれば、王城の新年パーティーに参加できるはずだよ! アンリ、お願いだから城を傷つけないでよ。絶対!!」
追いすがって服の裾に爪を立て、お姫様の穏便な救出を頼み込む猫を、ズルズルと玄関まで引きずりながらアンリは考える。王城をメテオで爆破するのはやめよう。
必死なサビ猫を見ていると、魔法で王城を滅茶苦茶にするつもりだったなんて、とても言い出せなかった。
「良さそうな道具をいくつか見繕って入れたからね! 頼むよ! あと絶対無茶しないように」
腰のポーチには、ランダハ特製の薬や、小型閃光弾、鍵などのちょっとしたアイテムが入っている。それぞれ常備薬、自衛用、日用品としても通用する物だ。王城に行くので武器は無い。MPポーションは一つしか入っていないので、アンリは肩を竦めた。
「行ってらっしゃーい!」
「行ってきます。お姫様に接触したら、この屋敷に連れて来るか、彼女を自由にできる場所を探して送るか、どんな生活であろうとも彼女の好きなようにしてもらう。それでいい?」
「そうそう。妖精は自由な存在なんだよ。誰にも閉じ込められちゃいけない!」
人間であっても、とアンリは心の中で付け足した。あとランダハも、と思いつつ、屋敷の玄関の軋む両開きの扉をアンリは開けた。




