14 ランダハと先王
アンリはお姫様を助けるのはやぶさかでないと感じた。もしかしたら自分と同じ境遇かもしれない。自分と似た未知の力にも興味がある。転生について知る突破口になる可能性もある。
きっと王城にメテオを沢山ぶち込めば、混乱に乗じて自分一人くらい侵入できるだろう、だからMPポーションを沢山貰って行こう、とアンリは算段をつけた。
その代わり勇者になるのは少々考えようとアンリは思った。ランダハの勇者契約を受け入れたとたんに、自分がオート周回可能なユニットになってしまう懸念を払拭できないからだ。アンリは、各種イベントも探索も粛々と進め、ランダハの協力者もとい手先として振る舞う、ゲーム内の1ユニットとしての自分を想像してしまった。
ついでに言うと、人間よりもイモータルの方がレア種族である。ステータスは高くないが戦闘で変動するようだし、お金で手軽にレベルが上がる。妖精と、おそらく人間も出来ないであろう、アイテム修復と眷属化も便利だ。ゲーム内では、資金をつぎ込んでしまうので、スコア狙いというよりはタイムアタック向けの種族なのかもしれない。
総合的に、アンリは人間よりもイモータルのほうが自分に向いていると感じた。デュフフもレア種族は強いと言っていた気がする。レア種族のままで人間側の勇者になることはできないから、ランダハの誘いを断ろうとアンリは決めた。
「勇者にはならない。その代わり、一緒にそのお姫様を助けよう。ところで『助ける』の基準は? 救出? それとも然る場所への保護?」
「ああ、残念。君は優しいから、情に訴えれば人間の勇者になってくれると思ったのに」
猫はしょんぼりと頭を伏せた。たぶんランダハは、アンリの考えている内容を分かっていない。それで良いとアンリは思った。
「でもアンリが一時的にでも協力してくれるのは、正直嬉しい。とりあえずお姫様の救出かな。僕はランダハの名前を貰ったから、もうこの屋敷から出られないし」
そこまで話したところで、屋敷の周囲が騒がしくなり、階下でドンドンと乱暴に扉を叩く音がした。
「先王が死んだぞ! 先王の名前が名簿から一瞬だが消えた! 状況を確認しろ! ご遺体は回収だ!!」
ドヤドヤと屋敷に人が入ってきて、物々しく騒いでいるのが雰囲気と振動で伝わる。
ランダハは平気そうな声で言った。
「あ、来た来た。あれは城の兵士だよ。アンリはそこにいていいよ。姿と気配を消してあげよう」
ランダハが鍵しっぽを左右に振る。アンリに魔法を掛けたのだろう。アンリは自分の身体が認識しづらくなったのを感じた。
ランダハは小さな籠から出て、ロッキングチェアの前に立った。
ガチャガチャと鎧と武器を鳴らしながら、兵士たちが暖炉前の小さなスペースになだれ込んできた。
「ご遺体はどこだ!」
猫が威厳をもってゆっくりと喋った。
「皆さま、わたくしがクトゥイ・デース・ランダハです。幸運なことに、猫の身体を借りて、まだ元気でございます。お疑いでしたら、どうかわたくしに鑑定魔法を掛けてみてください。ランダハ、と先王の名が出るはずです」
兵士たちが色めき立つ。
「何を!」
「本当です! ランダハと出ます!」
「なんと、亡くなってなかったのか!」
ランダハは自信たっぷりに話す。
「わたくしの遺体はございません。なんと猫に統合されてしまったようです。しかし特殊ダンジョンの管理は出来ています。これからも短い間ですが、わが国のお役に立てるでしょう」
猫は先王の立ち居ぶるまいを真似するように、深々と頭を下げた。
頭を捻る兵士たちが帰っていく際も、ランダハは礼儀正しく一人ひとりをもてなしていた。猫が先王を騙っているとアンリは知っていたが、兵士に思い出話をし、質問に丁寧に答える姿は、まるで本当の先王のようだった。