13 勇者への誘い
ロッキングチェアをギイギイと揺らしながらアンリはランダハに問うた。暖炉の火が温かく燃えている。
「勇者って魔族のダンジョンを攻略するんだよね」
「そうそう。魔族のダンジョンを踏破して、人間側にお宝やお金を持ち帰るのが目的さ。冒険者もそうだけど、勇者にとって大事なのは魔王を倒すこと。人間なのに疲れなくなって、食料と物資が続く限りずっと迷宮に潜っていられるよ。それにモチベーションも上がって、寿命が来るまで気疲れしない。すごいでしょ」
えっへん、と猫は小籠の中で胸を張る。オート周回の放置要素ってこういうことなんだなあとアンリは思う。
余裕たっぷりに見えるが、一切デメリットを説明しないランダハを、アンリは冷めた目で見た。そういうとこだぞ、と心の中でツッコミを入れた。
「ダンジョンに潜れば知りたいことを得られるって女神が言っていたような?」
「普通ダンジョンに潜る目的ってレベル上げと魔法の習得だよね。あちこち回って見聞も広がるし、当然、魔法のコンプもしたいんじゃないかと思って」
「そっかー、知りたいのはそういうことじゃないんだよなあ」
ランダハは沈黙した。アンリは、ランダハがアンリの転生について知らないということをほぼ確信した。
アンリは別の話題を振った。
「お姫様を助けてほしいっていうのは?」
「それは僕の我儘だよ。王城にアンリと似た子がいる。なんか未知の力があって、閉じ込められているらしいよ」
「どんな力?」
「アイテムを無限に出し入れしたり、未知のアイテムを作ったりするんだ。始めは市井の子どもだったんだけど、王城に連れてこられて王の養子になった。それからずっと厳重につながれて、色々な事をやらされているらしい」
「なんでその子を助けたいの?」
アンリはランダハに動機を問うた。まだこの猫のことを信用していないからだ。
「その子は妖精の髪をもってる。君と同じ、快晴と新緑が溶けたような色で、この髪をもつ人は妖精の末裔と言われている。僕はその子を助けたい」
サビ猫は思い詰めたような顔で答えた。
「ちなみに同じ妖精の髪をもつ私を助けてくれない理由は?」
「だから人間にしてあげようって言ってるじゃん! この死にぞこない! それに妖精の髪をもつ人間は妖精になれるけど、不死者は妖精になれないから。 僕に従って人間を経由しないとね!」
猫はベーッと舌を出した。サビ猫なので何をしても可愛いとアンリは思った。




