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プロローグ 異世界への転生

 目まぐるしく人々が早足で行きかう、いつもの新宿の雑踏。

今日もスマホを片手に商談に向かうサラリーマン、昼休みに社外でランチを取りに行く数人のOL、子連れの若い母親とおばあちゃん、アルバイトの学生、各国からの観光客で賑わっている。

その中で、とある大学生の女性が就職活動のために、おろしたての黒いヒール靴の音をコツコツと立てながら坂道を降りていた。


「午後の面接までまだ間があるか。ヒールが痛いな。帰りまでに靴ずれになってるわ、どうしよう。昨夜いきなり雨に降られていつものが濡れて乾かないから、さっき慌てて買ったんだよね。予備の靴は今日のスーツとイメージが合わないし。仕方ないけど、ついてないなあ。

さて、会社の資料と自分のエントリーシートをもう一度見返しておきたいから、どこかカフェにでも入ろうっと」


 彼女は月華(げっか)アンリ。黒髪ロングでさらさらのストレートを後ろに流している。ふだんはポニーテールにすることもあるが、今日は面接なので清楚な雰囲気で決めてみた。目元はキリッとしていて、古風な美人である。背丈が高めで、スタイルも良く、運動神経には自信がある。家での趣味は筋トレである。動画サイトでちょこちょことプログラミングの練習もしている。口を開くと早口で、歯に衣着せぬ言葉を放つこともあるが、大抵は状況を判断してにこやかに黙っている。そのほうが人受けが良いのを今までの経験から学んでいるからだ。ただ内面の気性の荒さは隠せないので、あまり男が寄り付かない。


「堅実な業種の中小企業で、営業職募集。体力には自信があるし、社風も合いそうな気がするんだけど。勉強してきたことをうまく活かせるかどうか。あとは数年後に産休と育休をどこまでもぎ取れるか。取れなかったら転職かな。あー、でもその前に結婚かぁ。いい男いないかな」


 ギラギラとこれから面接を受ける会社の詳細情報を読み込みながら、陶器の白く分厚いカップに入った熱々のカフェラテを半分まで味わって飲む。カフェや食べ歩きが大好きなので、主要駅近辺の好みの店はよく把握している。ここのカフェも穴場で人が少なく、彼女のお気に入りのひとつだ。ただ今日は隣に座ったお客さんが貧乏ゆすりをしていたので少し気になった。


 時間が迫ってきたのでタブレットと紙の資料をしまって鞄の中身を整理し、お手洗いで服装のチェックをし、リップをさっと塗り直してからカフェを出る。アイラインが微妙にかすれているのに気がついたが、きちんと直す時間もないので仕方がない。誤差の範疇だし、たぶん誰にも気がつかれないだろう。


「近道して行こうっと。確かここをこう曲がって、さらに曲がって……」


 勝手知ったる街なので、アンリはすいすいと会社に向かって進んでいく。地図アプリやナビゲーションもいらない。汗をかかないようなペース配分も忘れない。しかしちょっと縁石でつまずいてしまった。パンプスが汚れていないかさっと目視で確認し、カツカツカツと音を立てながら会社まで急ぐ。エントランスまでもうすぐだ。

 くるっと角を曲がると、そこにあるはずの道が無かった。


「あれっ?」


 足元が涼しい。全身がフワッと宙に投げ出される。

これは落ちているな。マンホールの蓋が開いていたのだろうか。それとも地下の掘りすぎで道路が崩落したのだろうか。昨日今日とついてなかったのは、地下に落ちる運命を回避するためだったのだろうか。

 事象の原因を考えている間にアンリの視界は暗転した。


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