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良い子は知らない魔法陣について行っては、いけません!

作者: 真瀬栞果


 どうも、召喚魔法陣がどこの組織にも属さないような図を見て、そのまま召喚された魔術師こと、レイナと申します。


 ちょっとね、今までと同じようでいて若干違うこの見たことのない魔法陣に惹かれてしまったのが、そもそもの原因。しょうがないよね、気になっちゃったんだもん!でも師匠に怒られるだろうな。



 私は憂鬱になりながらも、先程の魔法陣を頭に叩き込み、自分のいる場所を把握するために、周りを見回すとフードをかぶった人たちが私を囲っていた。


 「え、なになに?怖いんだけど」


 私が身をたじろぐと、シャランと音が聞こえた。

 そういえば先ほどから首と肩が若干重い気がしていたのだ。


 「まさか」


 下を見ると首輪が嵌っていることに気付き、自分の失態に愕然とする。


 「聖女召喚は成功したか」


 首元から目を離し、座り込んでいた私は上を見上げると、生やしている髭を触りながら、こちらへ近づいてくるおじさんがニンマリとした表情を浮かべながら歩いてくる。


 「聖女召喚?」


 私が言葉を繰り返すと、更にあくどい顔になったおじさんが、説明してくる。


 「あぁ、己が願いを叶えてくれる異世界の聖女のことだ。さて異世界の聖女よ、我の願いに応えておくれ。さもないと、その首輪はどうなることかな」


 私は嫌な汗を掻いたが、頭はスッと冷えた。


 「いやいや、そもそも私、聖女じゃないと思いますよ。そんな大層な力なんて持っていないし、権力的に貴方様に敵う人いなさそうじゃないですか」


 「聖女はまだ己が力に気付いていないのかもしれないな。我の願いは、この二つ。世界統一への力と、その我に心酔する聖女を所望する」


 やばい、絶対やばい。あー、魔法陣に夢中にならなきゃ良かった。面倒くさいことになってきたと思いつつ、オブラートに包んだ言い方で、この場を切り抜けたい。


 「そもそも私はこの世界の力が如何程かも知りませんし、その心酔する聖女というのもちょっと…仮に私が聖女だとしても、うーん、私は心酔しないかな」


 はっ!思わず本音で話してしまった。やばい奴に本音は不味い。完全に顔が怒りモードだ。


 「おや、聖女はまだここの世界の仕組みや、我の立場を理解できていないようだな。さて、それならまずは身体に刻むしかなかろうな」


 そう言うと、おじさんの顔は更に悪人顔になる。


 【我の元まで来い。そして、そうだな…足でも舐めろ】


 首がぐいと引っ張られ、強制的におじさんの元まで引きずられる。


 「ぐっ、無理無理。これ以上は絶対嫌!」


 「聖女も中々強情じゃのう」


 「本当に気持ち悪い。それに、こんな臭そうな足、舐めてたまるもんか」


 私は誰だ。私は聖女なんかじゃない。私は魔術師だ。


 「私は聖女じゃないっ!!!!」


 思いっきり叫ぶと、魔力を全力全開に解放させる。


 首輪がギシギシと言い、今にでも壊れそうな音を立てる。それに加えて、力技で首輪を引きちぎる。


 その瞬間、パリンっと音を立てて床に首輪が落ちる。


 「ひっぃぃ」


 気持ち悪いおじさんは、取れると思わなかったのか驚き腰を抜かす。


 「首と肩が大分、楽になった。ねぇ、あんた。この世界、随分と狂ってそうだね。私があるべき形に戻してやろうか?あぁ?」


 「や、やめてくれぇ」


 「まずはお前から」


 はははっと乾いた笑いをし、手をかざす。


 【裁く天秤】


 「あんたが今までどれだけ憎まれていたか、もしくは居なくてはならないような存在かを測ってくれる便利なオリジナル魔法なんだが、あら早いわね」


 やめろ、やめろと騒いでいるがとても耳障りで、暴れ始めたため、魔法で簡単に縛る。


 「こんなに早く結果が出る魔法でもないのよ。深刻なレベルで憎まれているわね。と、言うわけで、あなたは私が何かを下すより、きっと国民にしてもらった方がいいわ」


 長年の恨み辛みが凄いみたいだし、私は一言そう付け加えると、あいつが更に青ざめた顔をするのが愉快でしかたなかった。


 もう縛っていることだし、一番市民の人通りが激しい場所に捨ておこう。


 【今までの鬱憤をどうぞご自由に】


 呪うような言霊をプレゼントすると、この場から消え去った。


 千里眼で確認すると、一言で表すならボコボコにされていた。


 「はっはっ、愉快だな〜。これで面倒なのは葬ったし、あんたらも同じ目に遭いたい?それとも誰か帰り方教えてくれる?」


 フードを被った人等に言葉を放つと、ひいっと言い皆腰を抜かしてしまった。

 だが、その中でも凛と立ち続けていた人が私の方へ近づいてき、フードを取り、片膝を折る。


 「聖女様、初めまして。宮廷魔術師のレイモンドと申します。そして大変申し訳ございません。帰りの召喚陣はないのです」


 サラリとした金髪の長髪を床につけそうになるくらい頭を垂れた。


 「ない……の?召喚した時に変なものが来た時に追い払えるよう送還魔法は作らないの?例えば私みたいなの来たら一発で聖女チェンジ!とか言えるじゃない!!」


 「召喚魔法は偶然の産物なのです。それ以上に研究が捗らなく、本当は使いたくなかったのですが、無理矢理。俺もコレでして」


 レイモンドは首にチョーカーのようなものをしており赤い宝石が嵌ったものを見せてきた。


 「貴方のは一般的な奴隷の首輪でしたが、俺のは見た目を重視した奴隷の首輪です。そして魔力が高いものには、この魔法石が組み込まれ、自分の魔力では壊せないようになっているのです」


 一応この国で一番の魔術師なのでね、と付け加えている。


 「国一番の魔術師を奴隷になんて……。本当に嫌な世界。ねぇ、その首輪って奴隷の主人が死んだら壊れるもの?」


 「一般的にはそうだと思うが、ただ俺のは違うものだと思います。特別製だと自慢していた記憶もございます」


 どういうものが主流かは分からないが確かに私が先ほどまでしていた、ゴツゴツとして鎖までついているような如何にも感が漂っているものとは違い、アクセサリーや小洒落ている魔道具にも見える。この人の階級によるせいかもしれないが。


 「少し調べてみるから、片膝だけ突くのも辛いだろうし、悪いけど地べたに座ってもらってもいいかしら。調べてみるわ」


 足の長さからして身長もかなりありそうなので、そのまま私がチョーカーのような首輪を見やすいように座ってもらうことにした。


 「よろしくお願いします」


 承諾を得たところで、私の得意魔法でもしますか。


 【鑑定】


 「はっ?不味い。さっき、どうやって自分の首輪取ったっけな……。物理的だったわね。魔力をぶつけ、自分の力技。最終的に力技なんて、魔術師失格じゃないのかな」


 「どうしましたか?」


 時間がないので大雑把に説明させてもらう。


 「まずは、あなたのは主人がピンチになると、あなた自身の魔力を使い、主人の元へ転移される。そして主人が死ぬと、あなたも死ぬわね」


 それを聞いたレイモンドさんは元々白かった肌が、更に青白くなってしまった。


 「でもね、ピンチっていうのはレベルがあるみたいね。けれども、早くこれを外さないとならないわ」


 「貴方が王をリンチに合うように仕向けましたからね。いつ私が転移されるか、死ぬのか」


 「元々はあのおじさんがいけないからね!でも、ちょっと私の巻き添え食った感があるので、パッと取りたいと思うので!」


 その言葉を聞いた途端、花が咲いたようにパァと顔色を良くし、ピシッと背筋を伸ばし、宜しくお願いしますと言ってきた。


 「任せて」


 とは言ったものの、本当に特別製だったのだと思う。正攻法の解除の方法がないのだ。


 この世界は毒と薬の関係性を知らないのかと思ってくる。毒を作るときは必ず、その解毒剤も作るのが常識的だ。もし、それが自分に使用された場合、取り返しのつかないことになるだろうから。


 敢えて作らないことも確かに無いとは言えないが、この短時間で二度目だ。三度目だって、どこかに転がってる可能性はある。


 「力技か、魔法生成をするか」


 魔法生成が一番安全だが、時間がない。だからと言って、あのおじさんを助けたくはない。私に残された道は一つだ。


 「レイモンドさん、耐えてくださいね?」


 後から聞いた話だが私は、すこぶる怖い笑みを浮かべていたと、この時のことをレイモンドさんは語った。


 「レイモンドさんは防御というか、結界みたいな、自身を守ることは出来ますか?首輪以外に」


 「あぁ、できる」


 「じゃ、よろしくお願いします!では魔力ぶつけて力技、いきまーす!!」


 「せ、聖女様!?これはなんでも、魔力多すぎ!!!!」


 魔力を思いっきりぶつけるが、チョーカーの部分は繊維をほぐすように溶かし、魔法石のところはグツグツ煮込むかのようにこれも溶かす。


 「そして、何よりこれ大事!引きちぎる!!」


 レイモンドさんの首と首輪にある隙間に手をかけて、思いのまま引きちぎるように物理技をかました。


 「ぬぬぬ……!」


 ぶちっという音が聞こえたと同時に、先程まで力を入れていた腕が吹っ飛びそうになった。


 「まさか首輪が取れる日が来るなんて。本当にありがとうございます」


 「ちょっと取れるか不安だったけど、よかったよ!」


 私の手の中にあったのは引きちぎられたチョーカーのような首輪。そして、魔法石は跡形もなく消えていた。


 「貴方は不本意だとは思うが、俺にとっては本当に聖女様だ。助かった、ありがとう」


 「レイモンドさんを助ける為に、この世界に来たみたい……なーんてね!」


 そんな風に笑い合っていたら、私の足元に急に魔法陣が現れた。


 「突然なに?これは、まさか送還魔法っぽい。さっきの召喚魔法とよく似てる」


 「このまま帰られるのですか?」


 「帰るよ。荒らすだけ荒らして後処理をお願いするような感じだけどね」


 「その送還魔法の先が貴方の故郷の場所ではなかったとしても?意地悪な質問で申し訳ないですが」


 「うん、この魔法陣について行くよ。可能性が少しでもあるならね。悪いけど、ここにいても情報は無さそうだし」


 「そうですね、ここは……いや、この国には何も無いでしょうし」


 「レイモンドさんもお身体には気を付けて頑張ってくださいね」


 「ありがとうございます。お達者でいてください」


 レイモンドさんは微笑みながら、私はどこかに繋がるか分からない魔法陣へと吸い込まれていった。


 でも、私は心の何処かで期待していたのだと思う。この鮮やかで、そして包まれるような温かさのある魔法陣を作った人物を。


 「師匠……。ごめんなさい」


 目をゆっくり開くと、そこには私の想像していた男性がいた。


 艶やかな黒髪の、いまどき珍しい長い髪をして、頭の上の方で纏めている。そして切れ長の瞳には私を映し出していて、その表情は笑っていない。


 「この大馬鹿もの」


 いつもより少し低い声で怒っているような心配しているような様子に、私の目には涙が溜まる。


 「し、師匠……。会いたかった」


 私は勢いよく師匠に抱きついた。自分が悪かったと思いながらも、その姿を見てホッとしてしまった。


 「話はあとでじっくり聞かせてもらうからな」


 そう言うと髪を撫でるように、頭をポンポンとする。


 「あ、でもそんなに滞在時間ないので話すことないですよ?」


 「その話もしてもらうが、一番は何故、知らない魔法陣に抵抗しなかったかについてだ」


 「だって気になったんだもん」


 「だもんじゃねえ。知らない人にはついて行っちゃいけねぇなんて、幼稚園児でも知ってるだろうが。そこからやり直すか?」


 その後、まぁ無事で良かった。なんて言うから、顔を見たくて覗き込んだら、そっぽを向かれた。


 「おら、帰るぞ」


 くるりと回るように方向転換をし、足を進め始めた師匠の背中を私は少し小走りになりながら追いかける。


 「待ってくださいよー!」


 こうして、私のものの数分しか行ってない異世界の旅は終わりを告げた。


 後日、レイモンドさんがこの世界に来るなんてこと、この時には予想だにもしていなかった。


誤字脱字報告、ありがとうございました。

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