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未来へ到達する

作者: イ・シ

 つまり、継続し続ける外出自粛の命令は、我々人類にとって多大なる知見を与えることとなった。


 新作の映画の公開が延期になり、制作も困難であるということは、映画ファンの間に深い悲しみをもたらした。しかし、それでも折れない人々は、過去に希望を見出した。未来に絶望しかなくとも、人類史を遡れば、まだ見ぬ優れた作品などは湯水の如く存在するからだ。


 映画の誕生がリュミエール兄弟によるものとするならば、その歴史は100年以上にも及ぶ。配信産業の発展もあり、退屈を凌ぐ手段には事欠かない。そう考えていた。


 しかし、その見通しは甘かった。


 自宅に軟禁された人々の娯楽への欲求は凄まじく、この世に存在するあらゆるデジタル化されたフィルムは鑑賞し尽くされ、総人口のほとんどがIMDBをゆうに上回る映画への知識を得た。

 話題といえばギャンブルか風俗かというような50代の男性コミュニティが、突如としてハリウッド・テンの話題で熱く盛り上がるといった報告が溢れるほど、その影響は測り知れないものとなっていた。


 映画を喰らいつくした人類が次に求めた娯楽は、音楽と本だった。

 それらは人々が分断されたこの環境下においても辛うじて新作が作られていたから、元々のファンたちはいきなり過去の全てを消費しようなどとは考えなかった。しかし、映画を「観終えた」映画ファンたちの流入によって、その防波堤はいともたやすく決壊した。彼らはもはや、過去を貪ることにこそ快感を得る生き物へと進化していたのである。


 そして現在。数世代に渡って継承された我々の基礎教養教育要項は、かつての旧人類が呼ぶアカシックレコードなる存在に近しい内容に膨れ上がっていた。我々自身の肉体もまた、多くの知識に耐えうるよう肥大化した脳を持ち、その代償に不要な筋肉は衰え、手足は必要最低限までに短く退化した。眼球はさらに多くの視野を得るために大きく進化し、日光を知らない皮膚はくすんだ灰のようだ。


 止まらぬ過去への欲求から、我々は今、タイムトラベルの技術を開発している。

 辿りついた先で出会った旧人類に、我々はなんと言って声を掛けるのだろう。


 きっとそれは、彼らの文明になぞらえて、こう言うのだと思う。


「ワレワレハ、ウチュウジンダ」

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