プロローグその5
長い旅が始まった。
ゴブリンとは桁違いのオーク、オーガ、キメラにデーモン
敵の強さが上がってもそれ以上にバフ魔法を強めた。
強化しすぎると体に負担かとも思ったけど
どうやら思考能力も早くなってるようで全員順応することができた。
野営は3人で楽しく話して眠くなった順番にローテーションで休んだ。
半年が過ぎる頃には魔王の城が見え始めていた。
パーティー結成の早い段階から魔王の城へ一直線なんて自殺志願者くらいだろう。
苦笑しつつも外観を観察すると遠目にもはっきり見える瘴気のような黒い煙
勇者は正面から入ってサクっと魔王を殺すとか言っていたが
誰も反対はしなかった。
今更反対したところで聞く耳を貸す勇者ではない。
半年でエルもハルキもそれを理解してやりたいようにさせてきた。
「よう魔王さんよ、勇者様がぶっ殺しに来てやったぜ!」
謁見の間にも似た広さも高さもある空間で勇者が叫ぶと音が反響する。
木霊する声が消える頃黒い球体が現れて一気に膨張し始めた。
俺たちはその一瞬の出来事に動くことすらできずに飲み込まれた。
何も見えない状態でも俺たちにはエルがいるのでなんの心配も必要ない。
すぐさま暗闇の空間は消え去り光が戻る。
エルは跪いて祈りを捧げていた。
「何だったんだ?」
気遣わし気に俺の体をペタペタと確認しながら声を出す。
エルもそれに続く。
ってか、触るなら自分を触ろうね?
「金エエエ、女ァァァ!」
おおよそ人間の発した声と思えず勇者を見ると
血走った、いや目が赤く輝いていた。
目の端から瘴気が漏れ出て魔物よりも禍々しい。
「ハハハハハ。まさか勇者が悪堕ち展開とは恐れ入る」
勇者が声を上げて笑う。
ソレは勇者が乗っ取られたことを意味している。
ツノが伸びて漆黒を服の上から纏った。
俺たちは勇者から距離を取り警戒する。
「コイツはいい!傑作だ。
ここまで欲望まみれの我儘勇者がいるとは運がいい。
勇者の体に魔王の力
更にはコイツの抱えきれないほどの欲望を糧として
俺の魔力として有効活用してやろう。」
黒い瘴気が膨れ上がる。
「これはイイな。歴代魔王なんて目じゃないほどのとんでもない力だ」
寒気を感じるほどに邪悪な力が際限なく溢れ出す。
聖剣を携え王国最強装備を身にまとった魔王が誕生した。
「マジカよ」
「こんなの無理じゃん」
へたり込んだ二人を後目に
「まさか勇者が魔王になるなんて思わなかったけど魔王を倒すために来たんだから
本懐を遂げよう。手加減なしの全力で行くよ」
オリジナル魔法『バフ』全力強化
「ん、何だ魔力の馴染みが悪いな
時間をかけて取り込めば問題ないか」
魔王は違和感程度しか感じていない。
そうこうする間も俺たちの体は強力な身体強化がかかり続けている。
「おお」
「何これ?すごい」
「ちっ!アブソーブ系の魔法か?
いや、勇者と俺の能力が融合してそんなものが効くわけがない。
何が・・・マズイっ!力が抜ける」
「そろそろ3人で一斉に攻撃しようか。
今ならゴブリンのほうが強いくらいだよ」
「せーの」
「ホーリーレイン」
「漆炎」
聖なる光の雨は魔の物の存在を許さない。聖職者最強魔法
呪い属性を含む漆黒の炎をブレスとして吐くドラゴン最強の一撃
(口から吐きながら技名しゃべる意味って・・・とか考えるな)
眩い光が膨張してあたりを照らしたあと
呆気なくドグマと言う名の勇者であった体は灰となり
影となり、その場に確かにいた証拠を残して消滅していた。
エルとハルキは呆然としていたが
「こんなあっさり終わっていいのかよ!」
言いたいことはよく分かる。
「魔王倒せたの?」
フラグっぽい事を呟くエル
「ま、まぁいい
どうせ元々勇者も魔王みたいな性格だったしメデタシだな」
勇者の歴史に新たな1ページが追加された。
後の歴史家は語る。
愚の勇者が生まれたおかげで勇者の育成は慎重になり今日に至る。
名も無きニートの起こした奇跡は勇者を増長させない教育と
精神的な成長を必要と教育方針が見直され
ニートの地位向上に大きく役立った。
無職であろうと、努力は必ず成就する。
この事件があったればこそ、人の世は今も反映の最中にあるのだ。
世界に一時の平和が訪れたのであった。