プロローグその4
「おい、バフ野郎!俺を強化しておけよ?」
ゴブリン6体が連帯して迫る中勇者が叫ぶ
勇者を強化してゴブリン6体を弱体化させる。
「エルは俺を回復!トカゲは2匹倒しておけ」
勇者の指示に嫌々従うエルとハルキ
ダメージを受けてもいないのに回復させられるエルは
実は勇者への慈愛の心がないため普通に魔法を使わないと回復を発動できない。
ついでとばかりに嫌がらせでゴブリンまで回復するエルであった。
ハルキは開始早々にゴブリン2体を圧倒して勝利
鼻歌まじりで勇者の戦いを高みの見物と洗浄でゆうゆうと座り始める。
強化魔法だけかけて暇な俺の横に座っているハルキ
(いや、待てよ)
ふと気づいたことがある。
ドラゴンのステータスが高すぎてゴブリンを圧倒で消えるなら
ドラゴン並みのステータスになるまで強化したらどうなるんだろう。
強化段階を上げることも可能なんじゃね?
まだ1体も倒せていない勇者の相手のゴブリン4体から
根こそぎステータスを代償としてハルキにバフをかけてみる。
戦闘状態を解除して人型に戻ったハルキだが
劇的な変化が現れた。
これまでどころではなくハルキが光を纏いドラゴン形態ほどの圧倒的威圧感が吹き出した。
(やべっ、こんなに目立つと勇者が・・・)
「んん? おおお!」
ハルキも強さを自覚したのか気づき始めて声を上げた。
エルはチラリと視線を向けるとヤレヤレと呆れ顔で回復魔法を無駄にかけている。
エルに視線を移していたら
ドンッ! ドグワッッッ!!
ハルキの拳が地面で爆発してクレーターを作っていた。
おいおい
「ははっ楽勝だったぜ!」
意気揚々と引き上げてきた勇者ドグマに乾いた視線を向ける二人
いつも通り、魔物を殲滅してトドメボーナスももらってホクホクで気づかない。
「いや~また強くなっちまうな。ただでさえ勇者なのに」
聖剣を肩に担いでスキップするほどの上機嫌。
勇者
魔王を倒しうる唯一の存在と言われている。
魔物が蔓延り人間と魔物の争いが絶えないこの世界では
勇者は魔に対して絶対的な力を誇る。
魔物の全ての攻撃に対して発動されるダメージ減少。
魔物への全ての攻撃がダメージアップ。
そんな反則的な強さを持たなければ魔王には対抗できないと言われている。
そもそも職業とは何か?
回復魔法が強い者、攻撃魔法が強い者
体力がある者に物理攻撃が強い者
才能とも言うべき生まれ持った適性を職業適性という。
アルトは適正なし(無職)でそういう人を総じてニートと呼ばれている。
エルは聖職者、ハルキはドラゴンだが適性で言えば戦士だろう。
親から子に適正が受け継がれることはほぼなく
適正を診断するのは教会の神官の勤めとなっている。
「ところでよ、俺さっき覚醒したかも知んねぇ」
ゴブリンを殲滅したドグマは弱体化したことに気づかず続ける。
「途中からゴブリンの攻撃が遅く見えるし、雑魚すぎて張り合いねえっていうかよ
俺も強くなりすぎて雑魚じゃ物足りねーよ」
ゴブリンはどこにでもいる低級魔物です。
勇者でなくてもそこらの冒険者が狩っている魔物。
「「「はぁっ!?」」」
「我の見立てでは魔王のデコピンで殺されるほど弱いお主が
ついには頭まで弱くなったのか?」
ハルキは露骨に勇者を嫌っている。
「うるせーよ爬虫類!! 黙ってろ」
ドグマの言い方はいつもこんな感じで俺は諦めているけど
仲間を罵る姿は
正直言って気分のいいものではない。
「やめなよ。そんなこと言い争ってもしょうがないじゃん。」
「テメーもうるせーチビが。俺様が敵を倒してやってるんだから
回復しかできねー奴が命令してんじゃねーよ」
撲殺天使とも呼ばれるエルは慈愛の心で杖を振り下ろすと魔物は弾け飛ぶ
回復しかできないどころか戦闘能力では勇者を超えているだろう。
「そこの黙ってるニート!お前は俺様に生かしてもらってるんだから文句ねーよな~?」
「別にないよ。魔王を倒しに行くなら早く行こうか」
信じられないような目を向けるエルとハルキ
まぁまぁと宥めて落ち着かせる。
バフの強化で思いついたことがあった。
勇者の魔王退治はこれが初めてではない。
過去に多くの勇者が倒し、倒されてきた。
勇者と魔王は人類と魔物の代理戦争
その歴史の中に賢の勇者と呼ばれる勇者がいる。
賢の勇者は武力ではそこらの騎士にさえ勝てないほど弱かった。
そんな賢の勇者が魔王を倒した話は子供に大人気で
賢の勇者のようになりたいなら勉強しなさいと言うと
子供達は真面目に勉強し始めるので
親の常套句になっている。
その賢の勇者は物語の中で
魔王は魔力が枯渇すると配下を戦わせて時間稼ぎを行った。
奴にはマジックポーションのようなアイテムがない様子で自然回復するまで前に出てこない。
だから俺たちは魔力枯渇に合わせて全員の全力攻撃で倒したのだ
・・・と
つまり、魔王は魔法の代償を魔力で支払っている。
それならば俺の『バフ』をかけて発動する『デバフ』効果が効くのではないかと。
それを思いついてから、魔王と戦うのは早い方が良いと思い始めていた。
このパーティーは勇者とそれ以外でギクシャクしている。
早く解散したほうが全員のためでもある。
「おいおい・・・我は死にたくないんだが?」
ハルキの直接的な物言いに苦笑するが
「大丈夫だよ。秘策を思いついたから、魔王でも楽勝だよきっと」
その言葉を聞くとハルキはニコリと笑むとそれ以上追求はしてこない。
エルはドグマに怒鳴られてからずっと俺の手を掴んでいて黙っていた。
魔王に効かなかったら全員で全力で逃げよう。