プロローグその3
アルトはいつも野営当番である。
勇者は魔物との戦闘で真価を発揮してもらうために野営はさせられない。
勇者パーティーの【雑用係アルト】
それがアルトを評する言葉になっている。
素早さパーティー内1位
攻撃力と防御力パーティー内4位(最下位)
様々な職業のスキルを習得しており夜目も効く。
アルトには孤児院出身という生い立ちのために多くの師匠兼兄弟達がいる。
結果何事もそれなりにこなすバフ使いが今のアルトである。
こんな事があった。
教会が管理するアルトの暮らす孤児院に奴隷商人が盗賊を使って子供を攫おうとする事件が発生した。
その孤児院は子供達が自主的に働いていて
魔物討伐や農業の手伝い等でほとんどの寄付を拒絶していた。
シスターが常駐しない特殊な孤児院はシスターマザーと呼ばれるシスターが院長をしている。
シスターマザーは毎日世話をしに来るが教会で寝泊まりしているわけではないため
子供達は自主的にすべての家事や年少の子供の世話も引き受けている。
シスターマザーは教会の教義に反発することの多い異端で
彼女の運営する孤児院には教会が支援しないことを決定していた。
そんな折だった。
政治的背景を考えると商人の背後に教会がいたと思われる襲撃があった。
しかし、盗賊達はあっさりと撃退され
子供に一方的に負けた間抜け盗賊と親玉の商人なんて言葉で笑われることとなった。
盗賊が侵入した孤児院は静まり返って子供達は夢の中。
「こんな楽な仕事で金払いもいいと来てる。
専属で仕事を請け負ってやるぜ?」
にやけた笑みを抑えきれない盗賊の一人
「違いねえ」
同意する盗賊
4人侵入した盗賊たちは子供を一人ずつ肩に担いで笑い合う。
16人いた子供達を一箇所に集めた。
「おい!ガキども起きやがれ!!」
怒鳴りつけると寝ぼけ眼で起き始めた子供達は目を見開いた。
「重かったんだぜ~?俺の言うことを聞いて自分で歩きやがれ!」
逆らったら殺すとばかりにナイフの鈍い光が盗賊の手で輝く。
盗賊が4人しかいないことを確認してからのアルトは早かった。
全員がぼんやりと光り始める。
身体強化の『バフ魔法』
通常身体強化魔法は腕力上昇等特定の力を引き上げるものが多い。
アルトのオリジナルであるこの魔法は全ステータスを強化する。
そして魔法には魔力という代償を支払うことで発動するがこの魔法はここからが凶悪だった。
魔力も契約もなく自分以外のものに強制的に代償を支払わさせることが可能
つまりこの場合、子供全員を強化するために用いられた代償は盗賊の身体能力。
魔法の効果が切れても失ったステータスは元に戻らないことも盗賊は知る由もなかった。
「なんだぁ?ガキどもが光ってやがる」
盗賊はナイフを構えて制圧に動こうとするが
足がもつれて動きも遅い
大人と子供ほどもある能力値は逆転して数秒で鎮圧された。
盗賊は背後の商人の名前も警察に話したようで
大捕者になっていたようだった。
背後に教会勢力がいたらさぞや悔しい思いをしたことだろう。
しかしこの事件を機にシスターマザーはアルトの特異な魔法が
権力者に知られたらこの子の自由は奪われると判断して
「16歳まで使うでないよ」
それだけ伝えた。
アルトは言うことを聞くしっかり者だったので約束は守られた。
しっかり者のアルトは『バフ』なしで兄弟姉妹を守るための力を欲し
様々な職業の基本となるスキルを覚えていった。
雑用係はそうして生まれたのだ。