激戦地区から脱出
「その服装、一般市民か? 」
裏路地を抜け、ひと目がつかない建物内に入ってから、軍人が俺に聞いてきた。
俺はさっき起こったことをそのまま伝えたが、どうも信じてくれる様子ではなかった。
「起きたらここにいるわけないだろ…。
とりあえずこの区域は戦闘中だ、俺と一緒に脱出ポイントまで向かうぞ。」
「わ、わかりました……。」
俺が立ち上がると、軍人が俺にハンドガンを渡してきた。
震える手でそれを受け取ると、ずっしりとした重みが伝わってくる。
「ないよりはマシだ。
使い方はわかるか? 」
「ま、まぁなんとなくですが……。」
俺はハンドガンのスライドを引き、チャンバー内の弾薬を確認した。
しっかりと実弾が詰まっていて、引き金を引けば人を殺せる状態だ。
「行きましょうか、おまたせしました。」
「了解、無線で最寄りの脱出ポイントを確認する。」
そう言って軍人が無線で誰かとコンタクトを取り始めた。
「こちらブルーブラッド、路地裏にて一般市民を保護した。
これより最寄りの脱出ポイントより脱出する。」
無線からはノイズ混ざりの声が小さく聞こえてくるが、うまく聞き取れなかった。
脱出ポイントを確認した彼は俺の方を向き、ハンドサインを送ってくる。
「ついてこい、ってことですか? 」
「そういうことだ、早く行くぞ。」
そうして俺たちは建物から出た――。
「もう少しだ、あのヘリが見えるだろ? 」
長時間のダッシュで息を切らした俺に、軍人が目の前のヘリを指差した。
どうやらそのヘリから脱出できるらしい。
「わかりました! 」
――目の前でものすごい速さの物体が横切った。
その物体は、地面に転がるとカラカラと音を鳴らした。
「狙撃されてるぞ、もっと早く走れ! 」
さっきの物体の正体は弾丸だったらしく、俺達はラストスパートをかけるが如く走った。
ヘリポートに到着すると、付近の部隊が狙撃兵を攻撃し始めた。
「離陸するぞ! 」
今まで聞いたことのない弾丸の飛び交う轟音に耳を痛めながら、俺は目を閉じた。
ヘリはついに地上を離れ、空を飛び始める。
「ついてるな一般人、名前は? 」
離陸してしばらく、息も整った頃に軍人が俺に名前を聞いてきた。
「倭です、やまとって呼んでください。」
「ヤマト……ヤマトか……。」
すこし寂しそうな顔をしたが、彼はすぐに俺に手を伸ばしてきた。
「よろしくな、ヤマト。
詳しい話は、基地についてからにしよう。」
「わかりました、ぜひよろしくお願いします。」
軍人と握手し、俺は今の状況が現実であることを実感した。
地上は遠く、それでも混沌とした風景が広がっていた……。