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天才科学者の異世界紀行  作者: 葱田あおい
序章 はじまりの村 ハイデル編
7/7

7

「はーっはっはっは! 俺が世界最後のマッドサイエンティスト、サイオンディだ!」


 しまった。

 大切なところで噛んでしまった。

 自分の名前で噛むなんで有り得ない、そう思われるかもしれない。

 しかしこの世界に絶対というものは存在しない。

 まあ、そういうことだ。

 俺の登場に盗賊たちは一瞬固まったが、すぐに手下の一人が俺に近寄ってきた。


「サイオンディだァ? 何だテメェ。変な恰好しやがって」


「ハハハ、あまり舐めないでくれたまえ。俺の戦闘力は五十三兆だ」


「何言ってんだ? ボス、こいつやっちゃっていいっすかね」


 続いて残りの手下たちも俺の方へ歩み寄って、俺は四方を取り囲まれるような形となった。

 今にも喧嘩を始めそうな手下たちに対して、ボスは冷静に指示を出す。


「ああ、しかしそいつは危険な雰囲気だ。やるなら最初から本気でやれ」


「わかってますよ。っしゃ行くぞォ!」


 雄叫びを上げながらナイフを掲げ、手下たちは一斉に俺に切りかかってきた。

 やばい、わくわくする。

 こういう展開を求めていたのだ。

 趣味で兵器制作や身体改造を行っていた俺だったが、俺のいた時代では一切の戦闘が法で禁じられていた。

 だから試す場所が無かったのだ。

 今まで作ってきた作品を人に対して、しかも合法的に使うことができる。

 そのことに幸せすら感じていた。

 ああ、この時代に来て本当に良かった。

 盗賊たちは特に魔法を使う素振りはなく普通に喧嘩するようなので、こちらも物理で対抗することにする。

 盗賊たちは次々とナイフを振り下ろしてきた。

 俺はそれを紙一重のところで避け続ける。

 俺の目は望遠機能の他に動体視力強化も施されている。

 これくらいの相手ならばそれだけで十分対処できる。

 本当の強者に必要なのは圧倒的な力ではなく絶対に勝つという余裕なのだ。

 もっと大きく避けることもできるし、なんなら万一切られてもダメージはないだろう。

 しかし、紙一重で避けるというのが大事なのだ。

 なぜなら、その方がかっこいいから。


「フハハハ、そうな攻撃では当たらないぞ!」


 ついテンションが上がりそう口走ってしまった。

 これではどちらが悪役かわからなくなってしまう。

 暫く避けていた俺だったが、そろそろ頃合いだろう。


「その程度か、今度は俺の番だ!」


 まずは相手の攻撃を無力化しようと、一人の手首を掴んだ。

 そのままナイフを奪おうとしたが、それより先にボキリと嫌な音がした。

 手元を見ると、男の手首は完全に折れ、あらぬ方向を向いていた。


「あ、あぎゃああああああ! 腕がああああああ!」


「いや、申し訳ない。折るつもりはなかった」


 声を上げて痛がる男に、俺はつい謝ってしまった。

 しかしどういうことだろう。

 これはさすがに弱すぎる。


『筋力設定が原因です』


 ナミちゃんの指摘を受け、俺ははっとした。

 そうか、筋力設定を六にしてたけど、実際に人に使ったことは無かったな。

 人間って案外脆いんだな。

 とりあえず未だに痛がっている男が可哀想なので、手刀で首元を打って気絶させた。

 残るは手下三人とボス一人。

 手下たちは気絶させられた仲間を見て、狼狽えているようだ。


「そっちから来ないなら俺から行くぜ!」


 俺が叫ぶと、手下たちの目に怯えが見えた。

 もはや小動物のような顔をしている。

 流石俺も鬼ではないため、うっかり殺してしまわないように手加減はする。

 彼我の戦力差がわかって絶望している手下たちを、俺は手刀で気絶させた。


 俺は悪くない、あいつらは盗賊、盗賊は悪いやつ、俺は悪くない、あいつらは盗賊……。


 自らに必死に言いきかせる俺。

 こうでもしないと完全に俺が悪役だ。

 そうして手下をあっさりと片付けてしまった俺はボスの方を見た。


「えっと、こんな感じになってますけど、まだやりますか?」


「ふっ、当たり前だ。あんなザコを倒しただけで調子に乗るな。それにオレは今の時間で魔力を練り終わった」


 魔力を練る?


『解。男の体内にαが蓄積されています。恐らく身体強化系の魔法を使うと推測されます』


 そういうことね。

 俺がナミちゃんと会話していると、早速ボスは攻撃を仕掛けてきた。

 一直線に俺に向かってくる。

 ボスが持っているのはサーベルのような武器だ。

 少なくとも手下とは比べ物にならない。

 それに、先程の手下たちは一般人と大差ない体つきだったが、ボスは筋骨隆々だった。

 まさに戦闘を生業としている人の体つき。

 心を躍らせている俺に対して、ボスは思い切りサーベルを振り下ろした。

 身体強化系の魔法を使うと思っていたが、予想に反してボスの攻撃速度は遅かった。

 しかしボスの顔を見るとそこには不敵な笑みが浮かんでいた。


「食らえ、【筋力増強:中】、【速度上昇:中】」


 ボスがそう唱えた途端、ボスの動きが格段に速くなった。

 突然の速度の変化についていけず、俺はボスの攻撃を食らってしまう。

 振り下ろされた刃に対して咄嗟に腕を出して防御する。

 サーベルで切り付けられた俺は、そのまま勢いを殺せず派手に吹っ飛んだ。

 近くの民家に激突する。

 壁を突き破り、家の中を散々荒らしたところで俺は止まった。


「あっちゃあ……これは直すのが大変そうだ」


 俺の体の話ではなく、民家の話だ。

 かくいう俺の体は無事だった。

 サーベルで切りつけられたはずの腕を見ても、傷一つない。


『オロチの自動防御機構が作動しました。損傷はありません』


 ナミちゃんの淡々としたアナウンス。

 よかった、これが作動しなければどうなっていたかわからなかった。


 オロチ。


 これが俺の切り札の一つだ。

 オロチとは俺の体に仕組まれているプログラムの一つで、自動防御機構と自動修復機構の二つが含まれている。

 自動防御機構とは、その名の通り相手の攻撃を防御する機構で、攻撃が当たると予測される部位に超合金の盾を張るというものだ。

 盾自体はそれほど大きくないが、接触する部位にピンポイントで防御してくれるため問題はない。

 衝撃も吸収してくれるから俺の身体は完全にノーダメージというわけだ。

 俺の知る限りでオロチの防御機構を突破する術はない。

 それこそ謎の光のようなものでなければ。

 これがあるからこそ、俺は余裕をもてるのだ。

 防御機構が魔法相手に通用するか不安だったが、この世界でも何ら問題なく作動したし大丈夫だろう。

 先程の攻撃も、サーベルが腕に触れる直前にオロチが作動して、俺の体を守ったのだ。

 ちなみにオロチの盾はふだん俺の腹部に収納されており、同時に八つまで展開することが出来る。

 同時に九つ以上の攻撃がきたら防ぎきれないが、まずそのようなことは起きないだろう。

 それに万が一攻撃を食らっても、オロチのもう一つの力である自動修復機構が働くため大事には至らない。

 そちらの自動修復機構については使う時が来たら説明しよう。


 とにかく今は、盗賊のボスを倒すことが目標だ。

 俺は身体に着いた木片を手で払うと、家から出た。

 外には、勝利を確信したのか、俺への興味をなくして他の住民を襲おうとしているボスがいた。


「痛いなあ、全く。てか人の家を壊しちゃ駄目でしょう」


「なっ……無傷だと!?」


「なに、いい攻撃だったさ。相手が俺でなければの話だがね。ハーーッハッハッハ!」


 こういう台詞を一度は言ってみたかった。

 わざとらしいほどの強者感を漂わせながら、俺はボスに近づく。

 ゆっくりと、余裕ですよアピールをこれでもかと浴びせる。


「くっ……何者だテメェ。魔法を使った素振りもなかった。一体何を仕組んだんだ?」


 俺が至近距離まで近づくと、ボスの顔に焦りが見えた。

 汗をかきすぎてもはや体調が悪そうだ。

 戦力差があり過ぎて可哀想になってきたし、俺もそろそろ茶番に飽きてきた。

 ここらで幕引きと行こう。


「俺がどうやってこの力を手にしたか気になるか?」


「あ、ああ……」


「教えてやるかバーーカ! サイオンディパーンチ!」


 俺は渾身の力でボスを蹴り飛ばした。

 ボスは骨を軋ませながら、超音速で森の方へ消えていった。

 事の一部始終を見ていた村人から「パンチじゃなかったよな」などと言われているが関係ない。

 正義は俺にあるのだ。

 そんなこんなで、盗賊の騒動は収束へと向かった。

 村の被害は俺が吹き飛ばされて壊した家屋一軒のみ。

 人的被害が出なくて良かった。

 この時代に来て初めての、というか生まれて初めての対人戦だったが杞憂に終わった。

 俺が思っているよりも、俺は強いのかもしれない。

 そんな慢心も浮かびはしたが、恐らく盗賊が弱かっただけだろう。


「す、すげぇ! すげえよあんた! いったい何者だ?」


「サイオンディって言ってたわよね? いったいどこから来たの?」


「どうやったらそんな力が手に入るんだ!?」


 俺が勝利の余韻に浸っていると、戦闘を見ていた人たちがわらわらと集まってきてしまった。


『今の状態の義経さまが有名になると世界線が変わってしまう可能性があります。今すぐに退避してください』


 ですよね。

 ナミちゃんに言われた通り、俺がこの世界に変化を与えすぎると未来が変わってしまう可能性が高い。

 というわけで、俺は周囲の人から見えない速さで跳び上がり、森へと姿を消した。

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