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天才科学者の異世界紀行  作者: 葱田あおい
序章 はじまりの村 ハイデル編
2/7

2

不定期更新。

 転送時は、意識がぼんやりとする。

 まるで夢を見ているかのように。

 どれだけの時間こうしているかはわからない。

 しかしそんな時間もようやく終わりのようだ。

 段々と覚醒していく意識。

 体の感覚が戻り、ゆっくりと目を開けると、そこには広大な草原が広がっていた。


「どうやら、転送は成功したみたいだ」


「警告。大気中に未知の物質が含まれています」


「さっきから警告ばっかだね。大丈夫だよ、俺の肺の浄化機構は問題なく動いてる」


 俺は警告をくれたナミちゃんにそう返す。

 様々な兵器の開発では飽き足らず、俺は自身の体にも手を出してしまっている。

 その一つが肺の浄化機構。

 取り込んだ空気が体内に入る前に完全に浄化してくれる装置だ。

 この装置のお陰で、空気が悪くても、たとえどれほどの猛毒が充満していても全く問題なく動ける。

 その他にも色々な仕掛けがあるが、それはまたの機会に。


「とりあえず、その未知の物質っていうのを解析してほしいな」


「承知しました」


 ナミちゃんが解析作業に取り掛かったのを見て、俺は自らのやることを探す。

 まずは、今自分がどこにいるのか、どの時代にいるのかを知りたい。

 俺はインフィニティバッグを開け、中から小型衛星ツクヨミを取り出した。

 小型と言っても直径五メートル程の球体である。

 明らかにバッグのサイズと合っていないが、インフィニティバッグの入り口は次元拡張が施されているため問題なく取り出せるのだ。

 小型衛星ツクヨミを起動すると漆黒の球体に紫の線が走り、地面からわずかに浮く。

 この演出がかっこよくてお気に入り。

 そして数秒すると、ツクヨミは音もなく上昇していった。

 ツクヨミは従来の飛行機やドローンのような飛び方ではなく、重力制御によって飛ぶので翼もプロペラも必要ないし、静かだ。


 ツクヨミで得られた情報は、全てのデータを保存、管理するコンピュータ・イザナギに送られる。

 イザナギは途轍もなく大きいためインフィニティバッグから出すことは無いだろうが、中に入っていても問題なく稼働するので関係ない。


「ツクヨミ打ち上げたら特にやることないなぁ。作戦会議でもしようか」


 無論一人で、である。


 まず、現状の整理をしよう。

 俺は……というか俺のいた世界は何者かに襲われ、全てが消えた。

 俺はタイムマシンでぎりぎり転送されたから無事だったものの、俺の研究所はもう跡形もなくなっているだろう。

 てか、人類終わりだよな。

 ……どうするんだ?

 現状、人類で生き残っているのは俺だけかもしれない。

 いや、その可能性の方が高いだろう。

 これってもしかして、俺があの謎の光をどうにかしなきゃいけないやつなのでは。

 だって俺以外の人間は消えちゃったし。

 面倒くさいことこの上ないけど、やるしかないね。


 謎の光ってまず何だろう。

 突然現れて人類の文明を破壊しつくした。

 誰が、何の為に、など疑問は絶えない。

 誰がということに関しては、地球外の文明であり人間よりも高位な存在だろう。

 あの時代の技術力ではあんなことできないし。

 未来人の可能性もなくはないけど、仮に未来から来た人間なら対話を試みると思うんだよな。

 それでは宇宙人だとして、何の目的で俺たちを消しに来た?

 うーん、わからない。

 何か悪いことでもしたのか、はたまたただの侵略か。

 目的が何にしても、あの光を何とかしなければ人類に未来はない。


 とりあえず元の時代に戻る方法を探さないといけないわけだな。

 そうすると―—


「義経さま、解析が終わりました」


「お~さすがナミちゃん! 仕事が早いねえ。それで結果は?」


「未知の物質は一種類でした。仮にそれをαと名付けます。αは人体には全くの無害でした。さらにαは他の元素とは位相が違うようで、全く混ざり合わず、反応もしません。地球の中心部に発生源があるようです」


「え、ちょっと待って。ここ地球だよね? だって過去に戻っただけだもんね?」


「はい。ここは地球に間違いありません。年代は、私たちが来た年から約五万年ほど前。座標は、不明です」


「不明ってどういうこと?」


「わかりません。私の計算していた五万年前の地形と大きくかけ離れているため、座標の設定に失敗しました」


 色々と想定外のことが起きているな。

 ひとまず地形は衛星ツクヨミの情報を待つとしよう。

 にしても五万年前か。

 ホモサピエンスが出始めたのがだいたい十万年前で、五万年というとクロマニョン人あたりか。

 意思の疎通とかできるのかな。


「これからどうするのですか?」


「うーん、タイムマシンが使えれば良いんだけど……」


「タイムマシンはエネルギー枯渇のため使用できません。私たちのいた時代のタイムマシンが破損し、機能が停止したのが原因で、エネルギーの再充填ができなくなっています。チェックポイントが消滅したため元の世界線に戻ることも不可能です」


「だよねぇ。まあ元の世界線に戻っても何もなくなってるからそれは良いんだけど、この時代でエネルギーを貯めるのは難しそうだなぁ」


 それに関してはおいおい探していくしかないだろう。

 いずれにせよ、この時代で生き延びていくしかない。

 そのうち解決策が見つかることを祈ろう。


「警告。義経さまの研究所に何者かが侵入しました。謎の光による襲撃の九十五時間前です」


「侵入者? 四日前くらいは特に何もなかったけど。ああ、タイムパラドックスというか、俺たちが時空跳躍をして過去に戻ったから歴史が書き換えられたのか。侵入者って誰かわからないの?」


「はい。恐らく時空跳躍を経てあの研究所の内部に入ったと思われますが、システムの穴をついていて人物の特定ができません」


 少しややこしい話になるが、俺たちが時空跳躍で過去に飛んだせいで未来が書き換えられたのだ。

 俺たちは侵入されたことを経験していないが、侵入者がいたという事実だけが残ったらしい。

 まあ、そのへんはよくわからなくても生きていけるから問題ない。


「にしても正体不明の侵入者か。これ以上事態をややこしくしないでくれよ……」


「申し訳ございません。私が未熟なせいで」


「いやいやいいのよ。そもそも四日前の時点ではナミちゃんは完成してないし」


 手首に巻いた携帯端末から深く反省する声が聞こえる。

 俺はそんなナミちゃんも可愛いな、と思いつつ侵入者のことを考えていると、遠くの方に人影が見えた。


「人?」


 思わず口に出してしまう。

 先程も確認したが、五万年前に現代人のような人は存在しない。

 いてもクロマニョン人とかのはずなのだが、確かに俺の目は人を捉えていた。

 両眼に施された望遠機能をフルに使って拡大すると、農家の娘らしい人物がはっきりと視界に映った。


「この時代にあんなちゃんとした服着た人がいるってどういうことだ?」


「わかりません。会いに行きますか?」


「そうしよう。敵意もなさそうだし、いざとなっても負けることはないでしょ」


「対象までの距離は五百メートルほどです。道中に危険はありません」


「おっと、その前に光学迷彩を発動させておこう」


 光学迷彩とは視覚的に対象を透明化させる技術のことだ。

 俺はそれに少し手を加えて、自分を好きな容姿に変えられるようにしたのだ。

 今の姿のままでは目立ってしまう可能性があるので、彼女と同じ農民のような恰好に。

 年齢は警戒されないように五歳程度にしておく。


「さて、それじゃあ彼女に会いに行こう」


 俺は声変わり前のショタボイスでそう言って、歩き始めた。

 第一村人発見である。

イザナギ:めちゃすごいコンピュータ

ツクヨミ:小型衛星

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