森を揺らす者
森の中にひっそりと佇む洞窟に、騒がしく重々しい足音が響く。
それはその洞窟の前まで迫ると急停止し、その巨大な身体な上から小さな人影が飛び降りていた。
「・・・クロード!レオン!!」
洞窟の中へと僅かに踏み込んだイダは、そこに向かって大声で呼びかける。
しかしいつまで待っても返事はなく、外に対して呼びかけても結果は同じだった。
「・・・いない?」
見れば洞窟の中には食事の形跡と、争った後があった。
それはクロードの力を使用した跡で、彼らがここにいた事は間違いないようだ。
「・・・誰かと戦った?もしかして・・・」
争った形跡を見れば、自分達を襲撃してきたゴブリン達を連想する。
イダはその形跡をそうだと判断する、レオンとクロードの能力を考えれば、そうそう遅れは取るとは思えないが、その胸中に不安が広がるのは仕方のない事だった。
「・・・どうしよう」
心に広がっていく不安に焦燥感は加速する、イダはとにかく情報を集めようと洞窟内に残っていた食事の形跡を掘り起こし始める。
そこには半端に調理され、串に刺さったままのキノコが埋もれていた。
「・・・これは?」
「キュー!キュイ、キュイ!」
土埃に塗れ、半ば地面に埋まっていたそれを手に取ったイダは、鼻に近づけると食べられそうかを吟味する。
その見た目といまいちな匂いに彼女が首を傾げていると、後ろからキュイを鳴き声を上げて近づいてくる。
「・・・欲しいの?美味しくないよ?」
「キュー!!キュ、キュ!!」
裾の引っ張ってきたキュイに、手に取ったキノコを欲しがっているのだと思ったイダは、あまりお勧めできないとそれを遠ざける。
彼女の仕草にそうじゃないと怒ったキュイは、必死に首を振って違うと主張すると、鼻を地面に近づけては、ある方向を示すという動きを繰り返していた。
「・・・クロード達の匂い、分かるの?」
「キュイ!!」
キュイの動きに何かを察したイダは、恐る恐る彼の首筋に触れると、それを問いかける。
頭を上に掲げ、嬉しげな鳴き声を上げたキュイは、どこか自慢げにそれが可能だと示していた。
「・・・偉い、偉い」
「キュゥ・・・」
自分の能力を誇るように頭を動かしたキュイは、イダの前にその頭を垂れる。
それはあからさまに、褒めて欲しいとねだっていた。
その仕草に笑みを漏らしたイダは、キュイの頭と首筋を優しく撫でてやっていた。
「キュイ!!」
「わわっ!?」
一頻り撫でられて満足したキュイは、イダの身体を咥えるとそれを自分の背中へと運ぶ。
自分の意思ではない移動に驚きの声を上げるイダは、キュイの背中に捕まると、なんとかそれから転げ落ちないように両腕に力を込めていた。
「・・・乱暴」
「キュ~・・・」
どうにかキュイの背中の上で安定したイダは、その身体を若干強めに叩いて注意を促す。
キュイ自身も調子に乗ってしまっていた事は分かったようで、項垂れて悲しそうな鳴き声を上げていた。
「・・・分かった?」
「キュイ」
「・・・ならいい」
項垂れて反省の姿勢をみせるキュイに、イダは優しく語りかける。
頭を縦に振って肯定を示したキュイは、窺うように彼女へと振り返る。
その様子にイダは納得して頷くと、その背中と優しく叩いていた。
「・・・じゃあ、れっつごー」
「キュイ!!」
森の中に紛れるように、身体を沈めていたキュイが身体を起こすと、その重量に周りの木々が震えていた。
見上げる巨体はそれでも、森の木々を超えるほどではない。
しかしその大きさは、先ほどイダが入っていった洞窟にはつっかえてしまうほどのサイズとなっていた。
イダの声に了承の鳴き声を上げたキュイは、クロードとレオンの匂いを追って森の中を疾走していく。
その足音は騒がしく、そのスピードも凄まじいものだった。