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クロードとレオン、その戦いの果てに

 森に響く騒乱の音は、何やら半端に硬いものを無理やり砕くものだ。

 悲鳴を上げながら一心不乱に駆けている男は、その音に後ろをチラリと振り返ると、再び悲鳴を上げて逃げる足を速めていた。

 彼の後ろからは赤毛の少年が迫っていた、その身体はどこか土埃に塗れ汚れているようだった。


「ふざけるなっ!!さっきからなんだこれは!?もっと本気で掛かってこい!!」

「ひぃぃぃ!!?この能力では無理なんですぅぅぅ!!」


 クロードのぬるい妨害に激昂した声を上げるレオンは、彼が作り出した壁を砕いた剣を振り回す。

 創りの力では相手にダメージを与えるような直接的な行為は行えない、クロードは時間稼ぎのための場当たり的な行動に終始するしかなかった。

 それでここまでどうにか逃げてきた訳だが、元々豊富ではない体力に彼の心臓は限界を迎えようとしていた。


「はぁ、はぁ、はぁっ・・・もう、限界」

「なんだ?もう諦めるのか?それなら最初から・・・」


 限界を超えた鼓動は、クロードに痛みすら訴えて地面へと膝をつかせる。

 蹲るように両手も土を掴んだ彼は、荒い呼吸を必死に整えようと胸を激しく上下させていた。

 その姿を見たレオンは、全力疾走だった足を緩めると、駆け足で彼へと近づいていく。


「・・・なーんてな、それ!」


 欺きに、笑みを作ったクロードの表情は強がりだ。

 彼の荒い呼吸は、まだ整わない鼓動を示している。

 それでも彼はどこか不敵な笑みを漏らすと、乾坤一擲のアイデアを胸に地面へ両手をつける、その手の平には眩い光が宿っていた。


「なんだとっ!?くそ、そんな事も出来るのか!?」


 自らの足元から塔のような土の塊を伸ばし始めたクロードは、それに乗ったまま凄まじい速度で森の奥へと消えていく。

 その姿に、慌ててレオンは全力で追いかけ始めていた。

 急速に抉れていく塔の周りの地面に、根を張った土がなくなった木々が倒れ、彼へと襲い掛かっていった。


「はーっはっはっは!遅いぞー、レオン君?そんなんじゃあ、置いていってしまうよ?」


 急速に離れていくレオンの姿に、クロードは高笑いを上げては彼を煽っていた。

 前へと進むために急な角度になっている塔に、彼はそれほど余裕があるわけがなかった。

 必死に縁へと掴まって、そこから落ちないように頑張る彼は、空いた片手を塔へと伸ばす。


「・・・なるほど、こうすればいいのか」


 塔の先端の平らな部分を椅子の形の受け皿へと作り変えたクロードは、そこに体重を預けて座り心地を確かめる。

 安定した居場所を手に入れた彼は、背後を振り返ると追ってくるレオンの姿を探す。

 しかしそこには、彼の姿は見当たらなかった。


「ん~・・・どこ行ったんだ?そうか、諦めたのか!はっはー、やってやったぜ!!」


 姿の見えないレオンに、クロードは彼が諦めたものと結論付け、自らが作った椅子の上に立ち上がってはガッツポーズを作っていた。


「そうか、それは良かったな」

「え?どこ、どこだ!?」


 静かに響いた声は、クロードの足元から聞こえてきていた。

 ブリッジ状に伸びた塔の下へと身を潜めていたレオンは、手にした剣を振り抜くと、その先端へと向かって駆け出し始める。


「あ、そこか。まぁ、今更そこにいた所で・・・うぉぉ!?」


 椅子の左右へと手を掛けて周辺を探していたクロードは、塔の影にレオンの姿を見つけると、安堵と嘲りの声を漏らす。

 彼がどこにいた所で塔が伸びる速度は、彼の走る速度より速い。

 その関係は崩れる筈もない、この塔が崩れでもしなければ。


「くそっ!?マジか!?その手があったか!!」

「シラクゥゥゥ!!!」


 レオンが振るった剣に半ばから断ち切られた塔は、ゆっくりと崩壊していく。

 そこまでの高さではなかったため、椅子から転げ落ちても大して怪我を負わなかったクロードは、迫り来るレオンの姿に一目散に逃げ出し始めていた。


「はっ!」

「ひぃぃ!!?」


 塔に運ばれていたため整った呼吸も、元々違う身体能力に大したアドバンテージにもならない。

 あっという間に距離を詰められてしまったクロードが、その一撃を避けられたのは偶然だ。

 ただ、木の根に躓き、転んでしまう事をそう呼ぶのであればだが。


「ここまでだな、シラク。潔く、死んでくれ」


 アンナが彼に説明したクロードの能力はどういったものだろうか、少なくとも彼の復活回数を知る筈はない。

 それでも彼がその能力を知っているなら、復活できなくなるまでクロードを切り刻むだろう。

 それだけの覚悟が、彼の瞳にはあった。


「ま、待ってくれ!!ほら、向こう、向こうを見てみろ!!あれ、アンナじゃないか!?」


 レオンに馬乗りになられたクロードは、必死の命乞いに彼の注意を逸らそうと彼方を示してみせる。

 直接的な攻撃が出来ないとばれてしまった能力では、今のレオンを弾き飛ばすのは難しいだろう。

 彼のその振る舞いは、苦肉の策だった。


「なにを馬鹿な!見苦しいぞ、最後ぐらい・・・?」


 しかしどんな偶然か、彼が指を向けた先には金髪の少女の姿が存在していた。

 クロードの見苦しい振る舞いに、怒りと呆れが混じった声を上げたレオンも、その内容に一応をそちらへと視線を向けると、言葉を失い固まってしまう。

 そこにはゴブリンの集団に抱えられ、運び去られようとするアンナの姿があった。


「えっ!?マジで・・?」

「なんだと!?一体なにが・・・?」

「そんな事、今はどうでもいいだろ!?それよりアンナを助けないと!!」


 かなり距離のある彼らの姿に、クロードがそれを指させたのは偶然でしかない。

 驚きに目を見開いているレオンは、彼女が何故そうなってしまったのかという経緯に、疑問を感じて立ち尽くす。

 彼の組み敷かれたままのクロードは、そこから抜け出そうと必死に身体を動かしながら、それどころではないと大声を上げてアピールしていた。


「あ、あぁ・・・そうだな、急ごう」


 良く分からない状況にも、このまま放置しておけばアンナが危険に晒されるのは目に見えている。

 レオンはクロードに言われるまでもなく、アンナの救援に赴こうとしていた。


「じゃあ休戦だな!いいよな!!俺なんていつでも殺せるもんな!?」

「分かった、分かったから!静かにしろ、見つかるぞ!」


 足をどけたレオンに慌てて彼の下から脱出したクロードは、まず最初に自らの生存権を確保しようと大声を上げる。

 遠いとはいえ目視が可能な距離のゴブリン達に、その大声は危険すぎる、レオンは慌てて彼の口を押さえていた。


「大丈夫そうか・・・?次やったら殺すからな。おかしな真似はするなよ?」

「んぅ、んぅ!・・・わ、分かったから!それを離してくれぇ!」


 遠ざかっていくゴブリン達の様子を窺っていたレオンは、変化のない彼らに安堵の息を漏らした。

 レオンはアンナの身を危険に晒したクロードを冷たい目で睨みつけると、押さえた口をそのままに剣先を突きつけて彼に脅しを掛ける。

 押さえられた口でもごもごと了承を返していたクロードは、それから解放されると必死に首を伸ばして、少しでもレオンの突きつける剣先から逃れようとしていた。


「ちっ、だから大声を上げるなと・・・まぁいい。急ぐぞ、静かについて来い」


 クロードが上げた大声に舌打ちを漏らしたレオンは、悪態を吐きながらも剣を収める。

 彼は地面に背中をつけたままのクロードを放置すると、姿勢を低くしてゴブリン達の尾行へと向かう。

 手を招いてついて来いと促す彼に、クロードは見よう見まねの忍び足で近寄っていく。

 その動きは不器用で余計に物音を立てていた気がするが、努力は認めるべきだろう。


「なぁ、提案なんだけど。俺は戻って皆を呼んできた方が良くない?ほら、俺って戦力になんないし」

「・・・お前の能力が使える場面があるかもしれない。いいから黙ってついて来い」


 レオンのすぐ後ろまで近づいたクロードは、その背中に提案を投げかける。

 その内容はもっともなものであったが、何より自らを脅かすレオンから、一刻も早く逃げ出したいという思いが如実に表れたものであった。

 しかし戦闘では頼りにならないクロードも、その能力は実に応用が利き様々な場面で役立つものだ、戦う事以外はそれほど自信のないレオンにとって、それは必要不可欠なものだった。


「あ、はい。そうですか・・・」


 思惑から外れたレオンの反応に、クロードはがっくりと項垂れる。

 逃げ出す道を絶たれた彼はレオンの後ろをトボトボとついていく、その動きはお世辞にも注意深いとはいえず、茂みに足を突っ込んでは騒音を立てていた。


「おい、うるさいぞ!」

「ひぃぃ、すみません!」


 その音に鋭く絞った声で叱責したレオンは、追跡の足を止めると前を進むゴブリン達の動向を注視する。

 彼の声に悲鳴を上げて縮こまったクロードは、低くした身体にさらに茂みへと突っ込んでしまう。

 その動きに舌打ちを漏らしたレオンは、問題なさそうなゴブリン達の動きに追跡を再開する。

 その距離はまだ遠く、彼らは慎重にその間を詰めていった。

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