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亀裂 2

「ま、待ってくれ!!そうだ!そんな有用な能力なら捕まえて利用すればいい!!正直嫌だけど、お前が信用してくれるまで我慢するよ!!」

「お前を捕まえる?それが可能だと本気で思っているのか?手足を切り落としても再生し、どんな物も作り変えてしまうお前をか?」


 振り下ろされそうとしている剣に、クロードは必死に手を伸ばして制止を要求していた。

 彼は自らの自由を犠牲にしても、この場を切り抜けようと画策する。

 この場を切り抜けさえすれば少女達は彼の味方をしてくれるだろう、そうなればどうとでもなると彼は考えていた。

 しかしその思惑はレオンにあっさりと否定されてしまう、彼の能力を考えれば拘束など、ほとんど不可能に近いと考えるのは当然だった。


「ちっ、ばれてたか・・・それじゃあしょうがねぇな!」

「なにっ!?くっ、この!!」


 命乞いの失敗に、レオンは剣を振り下ろす。

 交渉は不可能だと悟ったクロードは覚悟を決めると、洞窟の地面へと手を伸ばした。

 抉れて沈んでいく地面に、クロードの上半身は後ろに逸れる。

 彼の首筋を狙っていたレオンの剣先は、逸れた軌道にクロードの胸を掠めるがその傷は浅く、彼の能力に一瞬で癒されてしまう。


「逃がすか、なにっ!?」

「はっ、吹っ飛んでろ!!」


 作り出された穴に沈んだのはクロードの上半身だけだ、レオンが押さえている下半身は穴の縁にまだ引っかかっている。

 彼はその境目である腰を狙って剣を振るう、レオンの拘束にクロードはそれを躱せないだろう。

 しかしレオンはそれを振り切る前に何かに気がつくと、突然身を躱していた。

 彼の視線の先には自らの身体へと襲い掛かってくる土の壁が映っていた、しかしそれは彼の身体にぶつかる寸前に制止してしまう。


「あれ?どういう事だ?」


 クロードは、レオンの身体をそれで弾き飛ばすように力を行使していた。

 しかしその壁は彼の意図とは違い、レオンの目前で制止し、そこからどうやっても動こうとはしない。

 その光景にクロードは疑問の声を洩らしていたが、結果的にレオンは彼の身体の上から飛び退き、彼が作った穴へと落ちていっていた。


「シラクゥゥゥッ!!!」

「うおぉ!?怖ぇぇぇ!!?」


 うまく成果の出せなかった壁は、クロードの力によって崩される。

 穴へと転げ落ち、その一部を被ってしまっていたレオンは、立ち上がると共に土埃を舞わしている。

 どうにか穴から這い上がり、洞窟の外へと逃げようとしていたクロードは、後ろから響くその怨嗟の声に逃げる足を速めていた。

 無理やり身体を捻った彼は、その際に背負っていた鞄を穴の縁へと引っ掛けて取り落としてしまう、しかしこの状況にそれを取り戻している時間などある訳もなかった。


「くそっ、やっぱ速ぇな!?これならどうだ!」


 後ろから迫るレオンは、猛烈な速度でその距離を詰めてくる。

 元々の身体能力の差に、その距離はもはやあってないようなものだった。 

 猶予のない状況にクロードは地面を撫でるように手を伸ばす、そこから洞窟を塞ぐように壁が生み出されていた。


「こんなものっ!!」

「うおっ!?マジかよ!!」


 クロードが作り出した壁はまだ、洞窟全体を覆ってはいない。

 大きく飛び上がれば乗り越える事も出来たそれに、レオンは止まる事なく剣を振るう。

 バターのように簡単に切り裂かれた壁に、レオンはそのまま突き破って進んでいた。

 舞い散る土くれの中を突き進んでくるレオンの姿に、クロードは驚愕の声を上げる。

 時間は稼げるだろうという余裕の中で足を休めていた彼は、慌てて再び駆け出していた。


「諦めろシラク!お前の力は俺には通用しない!!」

「そう言われて諦める奴がいるかっ!!これでも食らえ!!」


 諦めろと叫ぶレオンに、クロードは両手を地面へと伸ばす。

 元から圧倒的に違う走る速度に、多少歩みを緩めても影響など高が知れている、クロードは速度の限界に挑戦するよりも、レオンを妨害する事を選んでいた。

 彼の左右の腕から、土の杭がレオンへと伸びる。

 それは片方は細長く、もう片方は平べったく分厚いものだった。


「ふんっ、こんなもの・・・なにっ!?」


 細長い杭はその形状に相応しく、速い速度でレオンへと迫る。

 それを軽く躱した彼の動きに、クロードはその先端を二つに分けていた。

 それすらどうにか躱してみせるレオンも、流石にその体勢は崩れてしまっている。

 そこに平べったく、分厚い壁の形をした杭が迫っていた。


「ん?また止まった、これはそういう事なのか?なんか直接的な攻撃には使えないとか、そういう・・・」


 しかしその杭も、レオンの身体へと届く直前で制止してしまう。

 二度目となったその光景に、いよいよ自らの力がそういった性質を持っているのではないかと考え出したクロードは、彼を攻撃をするのを諦め始めていた。

 幸い土の杭の攻撃を躱そうとしてレオンは体勢を崩している、その隙に距離を稼ぐ事は出来そうだった。


「それが、どうしたぁぁ!!!」


 崩れた体勢のまま雄叫びを上げたレオンは、そのまま転げるようにして全体重を剣へと乗せる。

 奔った剣先に切り裂かれた壁は、その杭となっている地面から延びた部分に剣を食い込ませる、レオンはそのまま飛び上がると、切り裂いた壁を蹴り破っていた。


「ひぃぃぃ!!?なんだよそれぇぇ!!化け物かよぉぉぉ!!?」


 レオンの化け物じみた振る舞いに悲鳴を上げたクロードは、必死に足を動かしている。

 彼を追い掛けるレオンは、もはや声を掛けても無駄だと悟ったのか無言で距離を詰めていた。

 逃げ足に劣るクロードは距離を詰められるたびに妨害を画策し、その度にあっさりと破られてしまう。

 静かなはずの森の中に、クロードの情けない悲鳴だけが響き続けていた。

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