表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/169

気まずい二人

 草を踏む音は二つ続き、その距離は遠くも近くもなかった。

 森の中をずんずんと進んで行くレオンの後ろを、クロードは微妙な距離を開けながらついていく。

 一応レオンもクロードの事を気遣っているようで、その道々で邪魔になる木の枝や草むらを刈り取っていっていた。


「アンナ達に言われてきてみたけど・・・正直ちょっと苦手なんだよなぁ、こいつ」


 すっかり仲良くなった少女達と違い、どこか距離のあるレオンとクロードの関係を気にしたアンナ達は、彼らに距離を縮めてもらおうと一緒に行動する事を促していた。

 あまり乗り気でなかった二人も、アンナやクラリッサから強く請われれば断る事もできない。

 そのため二人こうして気まずい空気のままで、道中を共にする事になっていた。


「・・・なんか言ったか?」

「いや、気のせいだろ」

「そうか」


 木の枝を刈っている途中だったのか、剥き出しの剣を手にしたまま振り返ったレオンは、どこか睨みつけるような視線をクロードに向ける。

 その迫力に気圧されそうになったクロードは、なんとか誤魔化しの言葉を吐き出していた。

 短く納得の言葉を返し、すぐに邪魔なものを刈り取る作業に戻ったレオンに、クロードはほっと一息吐くと、再びぶつぶつと呟き始める。


「なーんか、敵意を感じるんだよなぁ・・・あれか、俺が女の子達と仲良くなってるから嫉妬してるのか?まぁ、思春期だしなぁ・・・分からなくもないけど」


 レオンがクロードに向けてきた目つきは、元々生来のものかもしれない。

 しかしその振る舞いにどこか敵意を感じた彼は、その理由をあれこれと考え始める。

 そうして至った結論に、彼はどこかほっこりとした表情でレオンの背中を見詰めていた。


「まぁ正直俺も、男といるよりは可愛い女の子と一緒にいたかっただけだしな。戦力的にはこいつにはいてもらわないと困るし、年長者の俺から歩み寄って・・・」

「着いたぞ」


 レオンの心情を勝手に推測し納得したクロードは、どこか上から目線で彼との距離を縮めようと決意する。

 そんな考えを呟いていると、立ち止まったレオンが目的地への到着を告げていた。


「お、そうか。ところで、どこに向かってたんだ?」

「聞いてなかったのか?・・・俺が時々、一人で篭っていた場所だ」


 考えながら歩いていた事でさらに開いていた距離に、クロードは小走りでレオンの下へと近づいていく。

 その途中で行き先を尋ねた彼の言葉に、レオンは呆れたように目を細めると、溜息を吐きながら背後の景色を示していた。


「へぇ~・・・そういえば、時々いなくなってたな。ここで篭ってたのか・・・え、なんで?」


 ようやくレオンの横へと並んだクロードは、その先の景色を眺める。

 そこは、森の中にひっそりと佇む洞窟だった。

 彼らが拠点にしている川原の洞窟とは趣の違うその姿に、どこか心惹かれたクロードも、彼の目的を思い出せば疑問にも感じる、クロードはそれをそのまま言葉にしていた。


「・・・あんたが言ったんだろ?俺にサバイバルの技能があるって。嘘だったのか?」


 クロードのとぼけた発言に、レオンの視線に険しさが増していく。

 彼は呆れた様子をはっきりと見せていたが、その視線の中には不信の色も混じり始めていた。


「あぁ、あったなそんなの!だからここで篭って訓練してたのか・・・なるほど、確かに上達してる」

「・・・見たのか?そんなに簡単に使えるものなのか?」


 完全にレオンの能力のことを忘れていたのか、今始めて思い出したようなリアクションを取るクロードに、レオンはその表情の呆れ具合を深めていく。

 レオンの能力を思い出したクロードは、それを確かめるために能力発動させる、そこには彼の努力の跡がはっきりと現れていた。

 呆れた表情を見せていたレオンも、僅かに目を凝らしただけで自らの能力を見抜いて見せたクロードの言葉に、驚きを隠せなかった。


「前にも見せただろ?こんな所で一人でなぁ・・・飯とかはどうしたんだ?」

「それもサバイバルの内だろ?自分で適当にとって済ましてたよ」

「それもそうか」


 最初こそ手入れも行き届いておらず住み辛かった拠点の洞窟も、この数ヶ月の間にクロードがこつこつと改修を行った事で、大分住み易くなっていた。

 その環境に慣れていた彼は、ほとんど自然のままのその洞窟の姿に感心の声を漏らす。

 サバイバルの訓練と考えればそれは当たり前の事かもしれないが、アンナが作る美味しい料理にも慣れていたクロードにとっては、この環境はとても耐えられそうもなかった。


「なぁ、中を見てきてもいいか?」

「・・・好きにしろ」


 今まで人の手に入った洞窟か、小規模の浅い洞窟しか目にしていなかったクロードには、目の前の森の中に佇む洞窟というのは、中々にファンタジーを感じさせるものだった。

 僅かにワクワクしながらそこへと歩みを進めるクロードに、レオンはぞんざいに言葉を返す。

 彼は食料でも確保するつもりなのか、剣を構えて洞窟の周りへと歩いていってしまった。


「う~ん・・・距離を縮めるっていってもなぁ。どうしたらいいもんか・・・お、こけ発見!こういうのも雰囲気でるよなぁ」


 取り付く島もないレオンの態度に、どうやって距離を詰めようかと頭を悩ませるクロードは、すぐに別のものに興味を移してしまう。

 すでに彼の見える範囲から姿を消してしまったレオンに、彼らが仲良くなるのは遠い道のりのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ