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クロードのアイデア

 泣き疲れたティオフィラは、いつかクロードの胸の中で寝息を立て始めていた。

 彼女を部屋まで送り届けた彼らは、ちょうどいい時間に食事の準備に取り掛かる。

 先ほどまでティオフィラの様子をちょくちょく窺いにいっていたイダも、今は部屋の隅でキュイと遊ぶのに夢中のようだった。


「そういえば・・・壁の方はどうだったんですか?」

「あぁ、特に問題なさそうだったよ、補強しといたしな。でもやっぱりどっかに空気の通り道があるな、奴ら中でぴんぴんしてる感じだったぞ」


 調理中の鍋を掻き混ぜていたアンナは、熱で火照った頬を冷ますように顔を上げると、クロード達の方の状況を尋ねる。

 蜘蛛達を閉じ込めた洞窟へと様子を見に行っていたクロードとクラリッサは、その状況に安堵と落胆を同時に感じていた。


「そうでしたね。とりあえずは大丈夫そうでしたが、出来れば早めに対処したいところです。でも、ティオちゃんがあれでは・・・ちょっと難しいかもしれません」

「う~ん、そうだよなぁ・・・結局、ティオはなにが嫌なんだ?」


 拠点としているこの洞窟とそう距離のない蜘蛛達の洞窟に、クラリッサは不安を口にする。

 彼女はあの蜘蛛の外皮の硬さに対抗できる弱体魔法に期待するが、先ほどまでのティオフィラの様子に懸念を感じざるを得なかった。

 彼女の意見に同意するクロードは首を捻ると、ティオフィラはなにを嫌がってあれほど泣き叫んだのかという、根本的な疑問を問いかける。


「それは・・・ティオちゃんは自由な子ですし、身軽な戦いを好んでいました。それが今回の事で完全に付与魔術師になってしまうと分かって、悲しかったんじゃないでしょうか?」

「ティオはあの長い杖も嫌そうでした。前の戦いでも途中で放り投げてましたし・・・かといって杖を短くしても、あの子は元々素手で戦っていましたから」


 クロードの問いかけに、クラリッサとアンナはそれぞれに私見を述べる。

 彼女達の話す内容は微妙に異なっているが、どちらの意見もティオフィラが元々の戦い方を好んでいる事を語っていた。


「あれ?それなら素手で戦わせてやれば良くない?あ、でも・・・杖ってもしかして、魔法使うのに絶対必要だったりする?」


 彼女達の口ぶりに、クロードは単純な解決策を思いつく。

 しかしそれはすぐに自らの疑問によって上書きされる、彼の中のイメージでも、やはり魔法使いといえば杖だった。


「いえ、必ずしも必要では・・・そうよね、アンナ?」

「えぇ。ですが杖があれば魔力の通り道を意識できるので、狙いを定めやすくなりますし。先端の・・・多くは特殊な処理が施された宝石ですが、これは空間に魔力を投射する補助をしてくれます。ですので初心者のティオが、それなしで魔法を扱うのは・・・」


 クロードの疑問を否定したクラリッサは、自らよりも魔法を扱った経験の長いアンナへと詳しい説明を任せる。

 彼女から説明を任されたアンナは、慎重に言葉を選びながらクロードへと杖の必要性を説いていく。

 最終的に彼女は、ティオフィラには杖は必須という結論を下していた。


「うーん、そっかぁ・・・あれでも、それならその宝石だけあれば良くない?直接相手に触れるんだから、杖は別に必要ないよね?」

「そう、ですね。ですがそれは・・・」


 アンナが語った内容に、クロードは杖の宝石部分だけが必要だと考える。

 その素朴な考えは、物理的に不可能に思えた。

 魔法用に加工された宝石はその性質上それなりのサイズとなる、それを握り締めて戦えといっても、それはティオフィラの望みとは違う形だろう。


「いやぁ・・・多分いける気がするんだよなぁ。イダ、ちょっとティオがつけてるグローブを取ってきてくれないか?」

「・・・今じゃなきゃ、駄目?」


 部屋の隅でクロードが作ったボールを使ってキュイと遊んでいたイダは、彼の頼みに難色を示す。

 その二本の前足を器用に使って、身体に対して大きすぎるボールを運んでいたキュイは、それを受け取ろうとしないイダにボールを落としてしまっていた。


「頼むよ。あ、起こさないようにな」

「・・・分かった」


 クロードの頼みに渋々といった具合に頷いたイダは、駆け足にティオフィラが眠る部屋へと向かう。

 その後ろをキュイが、ペタペタとついていっていた。


「杖は向こうに置いてあるよな?ちょっと取ってくるかな」

「クロード様、何をなさるおつもりなのですか?」


 イダの姿を見送ったクロードは、視線でティオフィラの杖の保管場所を確認すると、ゆっくりと腰を上げた。

 武具の保管庫となっている場所へと向かうクロードに、クラリッサが疑問の声を投げかける。

 彼はその声に振り返ると、不器用にウインクしていた。


「ま、それは見てのお楽しみってね」


 なんとなく上機嫌に去っていくクロードに、クラリッサはそれ以上問いかける事は出来ない。

 彼女は中腰になっていた椅子へと、深く腰掛けなおしていた。


「な、なんだろうね!気になるなぁ」

「そうね、あの方がなさる事だからきっと・・・アンナ、鍋は見てなくていいの?」


 クロードの去っていた方へと身を乗り出したアンナは、尊敬と期待をこめた視線をそちらへと向けていた。

 彼女への同意と推測を口にしていたクラリッサは、アンナの手に持つお玉へと視線をやると、火に掛けられたままの鍋へと顔を向ける。

 そこには強い火加減に煮立ち、大量の蒸気を吹き上げる鍋の姿があった。


「あっ!?うわっ、煮立っちゃってる!!お水お水!!」


 クラリッサの指摘に慌てて鍋へと駆け寄ったアンナは、その惨状を目にするとすぐに水瓶へと向かっていく。

 涙目で煮詰まった鍋に水を加えていくアンナの姿に、今日の昼食は少し遅くなりそうだった。

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