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戦いの後で 2

「その・・・なんとか、助けてあげられないでしょうか?あの白い蜥蜴はまだ生まれたばかりに見えました、私可哀想で・・・」

「アンナちゃん、それは・・・」


 ただの確認に当たり前の事実を返したクラリッサは、アンナの方に顔を向けるとその表情に驚いてしまう。

 彼女は涙すら湛えて、襲われている蜥蜴の救助を願っていた。

 それは自然の食物連鎖のあり方に反した行いだ、呆れたように説得の言葉を捜そうとしたクラリッサは、思いのほか真剣な彼女の表情に口をつぐんでしまう。


「待ってくれ、クラリッサ。アンナには魔物を手懐けられる才能がある、これはその表れなんじゃないか?」


 戸惑うクラリッサと涙目のアンナが見詰め合う沈黙は、意外な人物の声によって破られる。

 彼女の振る舞いをその才能の発露だと読み取ったクロードは、彼女の行動を後押しする。

 自らの味方をしてくれる彼の行動に、アンナは感動したように腕を組んでいた。


「しかし、彼女にも私達にもテイマーとしての技術も知識もありません!危険すぎます!!」

「だが、これが成功すれば戦力は一気に増える、そうだろう?別に失敗してもいいんだ、一度やってみないか?」


 クロードの発言は希望的な観測に基づいた楽観的なものでしかない、対するクラリッサの反論は現実に即した危険性の提示だった。

 彼女の言葉にアンナは自らの望みの身勝手さに気づき、肩をしょげさせてしまう。

 クラリッサの意見を受けても、クロードは自らの主張を曲げなかった。

 それは絶望的な彼らの状況に、僅かな希望にでも縋らなければどうにもならないという、確かな事実を思い知っているからだろう。


「ですがっ!」

「・・・助けたい、蜥蜴可愛かった」


 納得がいかないクラリッサは尚も反論を続けようとする、それを遮ったのは意外な人物の声だった。

 彼女の服の裾を引っ張って注意を引いたイダは、静かに自分も蜥蜴を助けたいと主張する。


「イダちゃんまで・・・そんな、ペットじゃないんだから。もうっ、仕方ありませんね・・・分かりました、やってみましょう」

「いいの、クラリッサ?本当に・・・やった、やったー!!」

「・・・良かった」


 自分以外全ての人間が助けるのに賛成な状況に、クラリッサも流石に諦めの吐息を漏らすと、やけくそ気味に了承の声を上げた。

 彼女の声に最初は戸惑いを見せたアンナも、頷いて見せる彼女に喜びを爆発させて飛び上がる。

 その場で軽く跳ねては喜びを表しているアンナは、静かに喜んでいたイダを抱き上げると、その重みに逆に縺れるように地面に転がってしまっていた。


「あはは!ごめんね、イダ」

「・・・痛い」


 縺れて地面へと倒れこんだアンナは、それすら楽しいと笑い声を上げる。

 彼女の下敷きになってしまったイダは、打ちつけた背中に静かに文句を漏らしていた。


「まったく・・・テイムを試みる事は許しますが、失敗しても引き摺らない事!後、面倒はちゃんと見るのよ、クロード様も!」

「お、俺も?」

「当たり前です!!」


 地面に転がりながら楽しそうにしている二人に、呆れたような声を漏らしたクラリッサは、彼女らに言い聞かせるように確認事項を口にする。

 その最後に急に話題を振られたクロードは疑問の声を上げるが、続けようとした反論は彼女の強い言葉に遮られてしまった。


「分かった、クラリッサ。私、頑張るから!!」


 もはや意味もなく笑い転げていたアンナもようやく落ち着いたのか、立ち上がるとクラリッサに決意の拳を握ってみせる。

 その瞳は、気合で燃えていた。


「しかし、テイムするっていっても今更追いつけるのか?結構、時間も経っちまったけど・・・」

「大丈夫です、あの白い蜥蜴は左足の片方を怪我していましたから。自然と左回りに動いていると思います。その進路を予想して動けば、おそらく追いつけるでしょう」

「へぇ~、そうだったのか。よく見てたな?ま、それなら大丈夫か」


 クロードがふと口にした不安は、クラリッサの観察眼によって解消される。

 彼の声に一瞬不安そうな表情をしたアンナは、彼女の予想に安堵の息を吐く。

 クロードの感心はクラリッサの表情を僅かに歪めたが、それは彼女の表情をじっと見詰めるイダ以外には、自慢げな表情だと知られる事はなかった。


「・・・クロード、あれ使いたい」

「おぉ?なんだ、イダ?ちょっと待って、しゃがむから」


 戦いへの予感にイダはクロードの裾を引っ張って、彼が運んでいる道具を欲しいと主張する。

 彼女の身長では背伸びしても難しい高さに、寄りかかるような重さを感じたクロードは、すぐにしゃがんで取りやすいように身体を傾けた。


「イダちゃん、いい?では、向こうに。なるべく急ぎましょう、あの蜥蜴がいつまで逃げられるか分かりませんから」


 イダが目当てのものを取り出したのを確認したクラリッサは、向かうべき方向を指し示すと歩き始める。

 彼女の隣へと、自らの役割を思い出したアンナが慌てて駆け出していく。

 重たい荷物に立ち上がるのに苦労していたクロードは、イダに助け起こしてもらうと、彼女に手を引かれて二人の後を追った。

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