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女神アニエス

「・・・こんなものかな」

「もういいんですか?えっとそれじゃ読み上げますね・・・」


 蔵人がリクエストした能力は九つ。

 一つ、どんな存在にも通じる言葉を話せる能力。

 二つ、どんな文字も読み解く能力。

 三つ、一万回命を落としても復活できる能力。

 四つ、千年の寿命と老いることのない身体。

 五つ、全てを見抜く目、これは神の領域の力ということで条件付で発動できるようになった。

 六つ、創造の力、こう聞くととんでもない力に聞こえるが、ようは製作過程や知識を必要とせずに、目的のものが作れるようになるらしい。

 七つ、癒しの力、こちらは単純に、死んでさえいなければどんな状態でも癒せるというもの。

 八つ、周りの者の成長を促す能力、これは最大で十倍の成長速度になるとのこと。

 九つ、子孫が特別な力を得る能力、これはそのまま優秀な、それこそ天才と呼ばれる子供が生まれてくるというもの。

 この九つの能力が、蔵人が少女に要求したものだ。


「うーん・・・なんだか、戦闘向きの能力がほとんどないんですが、大丈夫ですか?今ならやり直せますよ?」

「いやいやいや、何でわざわざ戦闘のためなんかの能力なんて欲しがるの?生産とかさー、周りを成長させちゃう能力で楽して儲けた方が絶対お得だって!そんで美人な嫁さんと子供作って、その子らに養って貰えばいいじゃん?いやー、最強でしょこれ!」

「う、う~ん・・・クロードさんがそれでいいならいいんですけど・・・本当に後悔しません?視線だけで相手を即死させる・・・のは無理ですけど、一撃で即死させる能力とかありますよ?」

「いや、物騒すぎるでしょ、そんな力。そもそも、戦いとかしたくないしなー。ほら、俺って日本人だし・・・平和主義っていうか、そんなんが身に染みてんだよねー」


 蔵人が要求した能力は、ほとんどが直接的には戦闘に向かないものだった。

 そのラインナップに少女は控えめに変更を勧めてくるが、蔵人は自信満々に却下する。

 彼は生まれ変わる世界で、楽して暮らしていくビジョンを思い描いていた。

 なるほど確かに彼が要求した能力は、楽して大金を得られそうなものがいくつもある。

 子孫の繁栄まで約束された能力に、長い人生も安泰だろう。


「そ、そうですよね・・・で、でも!変身ヒーローとか、異能持ちとか憧れません?ああいう感じに・・・でも、そうか。この能力でも、案外・・・」

「・・・?それで、俺はこれからどうすりゃいいんだ?もう行く感じ?」


 蔵人が戦闘向きの能力を取得する気がないことが分かっても、少女はどうにか食い下がろうと粘ってみせる。

 それも思い直したように一人で納得する彼女の姿に、途切れて終わる。

 彼女が呟いた言葉は小さく、蔵人には届かない。

 彼は満足のいく能力に、待ちきれないといった様子で転生を急かしていた。


「あ、それはクロードさんがこの能力でご不満がないようでしたら、いつでも大丈夫ですよ!」

「・・・うん、オッケー。それで大丈夫」

「でしたら、そちらの方へ・・・あ、そこです!」

「え?あぁ、ここ?うわっ!?なんか光ってる!」


 空中に浮いたモニターのようなもの出現させて、蔵人に確認を促す少女。彼はそれにざっと目を通すと、軽く頷いた。

 蔵人の了承を確認した少女は、軽く周りを見回すと空間の一点を指し示す。

 ふよふよとそこまで歩いていった蔵人は、少女の声に停止すると、足元の光に驚き軽くステップを踏んだ。


「そこから地上に転生してもらいます。準備はよろしいですか?」

「あぁ・・・いや、そういえばあんたの名前を聞いてなかったな?なんて言うんだ?」

「・・・私はアニエス。女神アニエスです」


 少女の声に、蔵人は了承を返そうとして思い留まる。

 彼は少女に振り返ると、その名前を問いかけた。

 少女、女神アニエスは自らの名前と存在を告げると、今までのような童女らしい無邪気な笑顔ではなく、慈しむような慈愛に満ちた笑みを蔵人へと向ける。


「そうか・・・世話になったな、アニエス。さよならだ」

「えぇ・・・いってらっしゃい、クロード・シラク」


 変わらない見た目に、急に大人びた雰囲気を醸し出し始めたアニエスは、先ほどまでの取っ付きやすさが鳴りを潜め、近寄りがたい神々しさを帯びていく。

 なるほど、その姿こそが彼女本来の姿なのだろう。

 女神アニエスは穏やかに笑う、その唇は別れを告げていた。


「・・・・・・えっと、まだかな?なんか気まずいんだけど・・・」

「え~っと・・・ちょっと待ってくださいよ、これかな?いやこっちかな・・・?あ、ありました!それ!ポチっとな」


 格好良く別れを告げたつもりが、中々訪れない転生に気まずい沈黙が流れる。

 それに先に耐え切れなくなったのは蔵人の方だ、アニエスは自らの身体をまさぐっては、必要な何かを探している。

 彼女ようやく目的のボタンの付いた装置を見つけると、喜び勇んでそれをプッシュした。

 蔵人の足元の空間に穴が開く、その下には壮大な景色が広がっていた。


「・・・へ?転生って、そういう仕組みかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」


 一瞬の静止の後、ものすごいスピードで落下していった蔵人は、最後に悲痛な悲鳴だけを残していった。


「・・・お願いします、クロードさん。どうか、どうか私達の世界を、子供達を・・・」


 すぐに閉ざした穴に、彼女の呟きはもう届かない。

 その涙も。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 異世界にて、自身の命や自由を他人に奪われない為には抵抗する為の力が必須である、と何故思い至らないのか不思議でなりません。また、転生する世界がどのような世界なのか聞こうとしないのも不自然…
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