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望む能力と、その限度について

「そろそろ纏まりましたか~?」

「あぁ、悪いな待たせちゃって」


 思考を纏めるためだろうか、先ほどから断続的に聞こえてきていた蔵人の呟く声が止んだのを確認した少女は、その顔を覗き込むようにして状況を尋ねる。

 彼女が近づいてきたのは、明るくなる視界からも分かる。

 顔を上げた蔵人は彼女に軽く手を振ると、立ち上がって一度大きく伸びをした。


「いえいえ~、私は暇ですから。ささ、ずずいっとお聞かせください」

「あ、あぁ・・・なんでもいいんだよな、能力って?」


 蔵人自身も詳しくは知らないためよくは分からないが、なんだか間違った見得を切る動作をしてみせた少女は、彼の言葉を促しては目蓋を伏せる。

 その仕草に若干引いている蔵人は、確認するように彼女の目を見つめて疑問を投げかけた。


「えぇ、大体の事は。あ、でも!私が欲しいとかは駄目ですよ~?このこの、おませさんめー!」


 蔵人の疑問にあっさりと頷いてみせた少女は、何かを思いつくと彼の隣へと寄り、その脇を膝でつついていた。


「あ、そういうのいいんで。まずは、そうだな・・・言葉かな。言葉が通じないとどうしようもないし」

「それは・・・誰にでも通じる言葉を話せるって事でいいですか?」


 少女のノリを軽く流した蔵人は、まずは大事と思われる言語の能力を要求する。

 彼女もそれをスルーされることは予想していたのか、特に落ち込む様子もみせずに蔵人に詳細を確認する。


「そんな感じ。それがいいなら、文字も読めるようにして欲しいな」

「わかりましたー・・・登録、登録っと。はい、オッケーです」


 あっさりと通った要求に、蔵人は続いて文字の読解能力もお願いしてみる。

 それにはもはや、確認の言葉すらなく少女は了承する。

 彼女はその指先から象形文字のような複雑な形の粒子を生み出すと、指を動かして文章のような塊を作り出す。

 完成したそれを目元の高さまで掲げて確認した彼女は、それをどこかへと放って消していた。

 彼女の言葉を信じるなら、それで望んだ能力が登録されたのだろう。


「そ、そうか。じゃあ次は・・・そうだ、向こうでの見た目ってどうなるんだ?このまま?」

「あ、それも自由に変更できますよ。どうします、絶世の美少年にしちゃいます?それとも、美少女に・・・?」

「う~ん・・・いや、基本は今の感じで。あんまり変わっちゃうと違和感でちゃうし・・・」


 自らの半透明の身体を示しては、少女に質問した蔵人は彼女の答えに難色を示す。

 そこまで長い人生とはいえなくとも、やはりこの身体に愛着はあった。


「わっかりましたー!じゃあ、クロードさんの見た目に近い種族だと・・・ヒューマンかな?これをベースに、黒髪黒目で・・・身長はこれぐらい?」

「おぉ!?すごい、すごい!」


 蔵人のリクエストを受けた少女は、意気揚々と両手を差し伸べると、そこに円形のスクリーンのようなものを現出させる。

 彼女がそれをそれぞれに左右に回転させると、彼女の傍らに人影が現れた。

 最初の頃は出来の悪い人形のようにのっぺりとしていたそれも、少女が幾つか操作を加えると蔵人の姿を模したものに変わる。

 それを見て思わず歓声を上げた蔵人に、少女は自慢げに鼻を鳴らしていた。


「どうです!気に入りましたか!!」

「そうだな、基本的にはこれでいいだけど・・・もうちょっと身長を高くして、格好よく出来ない?」

「ふっふ~ん、お任せください!ここを、こうすると・・・どうです?」

「いい感じいい感じ、もうちょっと低く・・・そう、それ!」


 自信に満ちた表情で蔵人に彼の転生先の身体を示す少女は、彼の更なるリクエストを受けるとその薄い胸を叩いては力強く了承してみせる。

 彼女はその両手の操作盤と思しきもの細かく動かすと、蔵人の表情の変化をつぶさに窺う。

 彼女の操作と蔵人の声で形作られていく身体は、蔵人の突きつけた指に完成を向かえる。

 その姿は概ね蔵人をベースに、身長と容姿を整えたものだった。


「ふむふむ・・・中々イケメンに仕上がりましたねー。いや、クロードさんが格好悪いわけじゃないですよ!」

「別にいいって。それで、まだ能力はリクエストしてもいいんだよな・・・?」


 自分で作り上げた身体を、周りを飛び回りながら確認した少女は、その出来に納得するように頷く。

 その言葉が蔵人の容姿を否定する響きを帯びたことで、彼女は慌てて釈明に両手を振っていた。

 蔵人はその仕草に苦笑いを漏らすと、彼女に更なる能力の追加を出来るかを伺った。


「どうぞどうぞー!じゃんじゃん言っちゃってください」

「それじゃ、不老不死で」

「あぁ~・・・それはですねぇ、ちょっと何と言いますか・・・神の領域に踏み込んでしまっているという感じでですねぇ・・・」

「駄目?」

「はい、申し訳ないです・・・」


 意気揚々と蔵人にリクエストを促して、耳に手まで当てていた少女は、彼の望む能力を聞くと急にしどろもどろになって言葉を濁し始めてしまう。

 その様子を見れば誰でもそれが駄目だと分かる。蔵人がそれを言葉にすると、彼女は本当に申し訳なさそうに肩を落としていた。


「えっと、それは・・・死に難いとかでも駄目なの?例えば、命のストックがあるとか・・・」

「あ、それなら大丈夫です」

「いいんだ・・・じゃあ、命のストックが千、いや一万あるってのは?」

「全然、オッケーです!」

「おぉ!それなら、寿命が長いのもいける感じ?一万年は・・・長すぎるから千年で!」

「いいですね!やはりそれは長いだけではなく、老いも遅い感じですか?」

「いいね、そんな感じで!」

「了解でっす!登録、登録っと・・・他にもありますか?」


 不老不死が無理だと分かった蔵人は、駄目もとで代替の案を出してみる。

 恐る恐る出した提案はあっさりと了承されて、続いて出した提案には寧ろ少女の方が追加のアイデアを上げてきた。

 トントン拍子で決まった二つの能力に、少女は次のリクエストを受け付ける。

 終わる気配のないそれに、蔵人は少し唾を飲んだ。


「そうだな、じゃあ今度は何でも見抜くっていう能力を」

「あぁ・・・それも駄目なんですよね、ちょっと神の―――」


 少女との交渉は続く、蔵人ももはや自らの欲望を隠そうとは思わなくなっていた。

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