恋人の死に、エイニは豹変する
響いた音が、高く弾んでは落ちていく。
戦いの音は激しさを増すが、その終わりは近づいてきていた。
「くそっ!剣がっ!!」
「予備の武器は、サロモン!?」
「ある!その間、持たせて―――」
その手から弾かれて、地面へと突き刺さった剣にサロモンは悪態を吐く。
短槍を構えて彼の背中を叩いたヨランダは、戦いの継続は可能かと彼に問い掛ける。
その声に一瞬、地面に突き刺さった剣へと視線を這わせたサロモンは、後ろ手に括りつけた短剣へと手を伸ばした。
彼の目の前には、ゴブリンが飛び掛ってきている。
「ぐぎぃっ!?」
反らした喉に、ゴブリンが握った刃が通って抜ける。
薄皮一枚だけ切り取られた喉元に血が滲む、頭の真ん中を矢によって打ち抜かれたゴブリンは、振るったナイフだけを手放して、後方の木へと縫い付けられていた。
「ふふふ・・・殺してやる、魔物共は全部殺してやるぅぅぅぅ!!!」
「お、おぉ・・・助かったぜ、エイニ。その調子で頼むな」
自らのすぐ後ろから響いてきた、その怨嗟の篭った声にサロモンは恐る恐る振り返る。
そこには異常なほどに目を見開き、血走った瞳をぎょろつかせているエイニがいた。
彼女はその目を左右へと奔らせると、次々に矢を放っては魔物を仕留めていった。
「おいっ!大丈夫なのか、こいつは?その、背中を任せて?」
「大丈夫でしょう?今のところは寧ろ役に立ってるわ・・・好きにさせてあげたら」
エイニの異常な様子に、サロモンは相棒の腕を突いては早口に捲くし立てる。
ヨランダも彼女の様子は流石に気がかりなのかチラリと瞳を向けると、諦めたように溜息を吐く。
その言葉は投げやりで、責任感の感じさせないものだった。
「しかしな・・・」
「二人とも~、手が止まってますよ・・・そんなんじゃあ、魔物共を殺せないでしょおぉぉ!!!」
「ひぃぃぃ!!?」
ヨランダの言葉に尚も食い下がろうとしていたサロモンは、後ろから響いたおどろおどろしい声に言葉を喉に引っ込めた。
エイニは喋るばかりで戦おうとしないサロモンの肩口に後ろから抱きつくと、その耳元で絶叫する。
彼女のその声と態度にソロモンは悲鳴を上げ、そんな彼の姿にヨランダは深々と溜息を吐いていた。
「やれやれ、ね・・・」
後ろから迫るエイニから一刻も早く離れたかったのか、魔物達へと飛び出していったサロモンに、ヨランダも付き合って駆け出していく。
彼らに置いていかれ矢を打ち切ったエイニは、ゴブリンが落としたナイフを手に取ると、自らが用意したナイフも抜いて構えを取る。
「うふふ・・・二人とも仲がいいですねぇ・・・私も連れて行ってくださいよぉぉぉ!!!」
森の木々の間を、エイニの不気味な笑い声が響いていく。
その声もすぐに、戦いの喧騒へと消えていった。