子供達の戦い 6
「大丈夫、イダ、クロード様!エミリア、お願い!!二人が遅れそう!」
先頭を駆けているクラリッサが後ろを振り返ると、イダとクロードの二人が苦しそうに顎を上げていた。
チラリと横目でティオフィラを見たクラリッサは、先頭で敵をいなしている彼女の姿に諦めて次善の策を取る。
「でも、私はっ!!」
「わ、私はもう大丈夫だから!!エミリア、二人を!!」
「っ!無理はしないでよ!」
クラリッサに振られた役割に、エミリアは握った手の平を気にしていた。
それはその手に引かれていたアンナ自らが上げた声によって、払拭される。
一瞬躊躇ったエミリアも、握り返したアンナの手の強さに迷いを振り切って駆けていく。
「クラリッサ、このままじゃ追いつかれる!!」
「でもっ、これ以上スピードを上げるわけにはっ!!」
クラリッサの横へと寄ってきた猫耳の少年が、彼女へと窮状を告げる。
彼女もそれは薄々気づいていただろうが、対処しようのない問題に悲鳴を上げる事しか出来なかった。
「クロード様を置いていく訳にはいかないものね・・・でもこのままじゃ、駄目なのも分かっているでしょう?」
「イダもです!」
「あぁ、そうね・・・彼女を助けるためにも対処が必要でしょう?二手に分かれましょう、クラリッサ」
猫耳の少年とは反対の方向から近づいてきた、これも猫耳の少女はクロードの姿を見ると、クラリッサに囁く。
彼女の言葉は暗に、クロード以外の人間は切り捨ててもいいと語っていた。
それに強く反論したクラリッサに虚を突かれたような反応をする少女は、一つの提案をする。
「二手に?確かに、生き残れる確率は上がるかもしれませんが・・・」
「違う違う!単純に二手に分かれるんじゃなくて、僕達足の速い面子で敵を引きつけようって話・・・分かる?」
「そうそう、私達ならすばしっこいし、簡単に捕まらないからね!」
彼らの提案に疑問の声を上げるクラリッサは、顎に手を当ててその提案を検討する。
それも僅かな時間だった、猫耳の彼らの後ろには小柄な人影がくっついてきていた。
その小柄な少年と少女は、猫耳の彼らが話した内容を補足する。
その内容は、自らが囮となるものだった。
「ネストレ、ミレッラ・・・あなた達」
「いやいや、そんな深刻な顔しないでくれよクラリッサ。おいら達、全力で逃げた方が生き残れるって思ってるだけなんだから!」
「そうだよ、そうだよ!ドワーフの鈍足に合わせるのなんて、私達には無理なんだよねー」
年下の同族の覚悟に、思わずクラリッサは涙を溢れさせてしまう。
彼らは口々に気楽な様子を喋りだすが、彼女の頬を伝う涙の速度を緩める事はついに出来なかった。
「それじゃ、おいら達は行くから。皆のお守り頼んだよ」
「ほんと、ハーフリングなのにクラリッサって責任感あるよねー。私にはそんな役割、絶対無理!だから、そっちはあんたに任せた!!」
元気に駆けていく二人の姿は、あっという間に森の木々に紛れて消えてしまう。
嗚咽が喉に絡んでしまったクラリッサは、彼らに別れの言葉も告げることが出来ずにいた。
「おいおい、勝手に行くなって。そんじゃ、俺らも行くとしますかね・・・ティオ!!お前もしっかりやるんだぞっ!!皆に迷惑掛けんじゃねぇぞ!!」
「にゃー!!ヒルにい、うるさいにゃ!!言われなくても分かってるにゃ!ティオはもう一人前のレディにゃんだから!!」
「はははっ、そうかそうか!じゃあ安心だな・・・頑張れよ、ティオフィラ」
一緒に行くはずの面子が、勝手に森に向かって行った事に文句を漏らす猫耳の少年は、近くを走っているティオフィラに声を掛ける。
彼の言葉にティオフィラは拳を振り上げて文句を叫ぶが、その様子に彼は満足そうに笑うと、森へと向かっていった。
「ティオ、あんたは丈夫な子を生むんだよ。一族の血を絶やしちゃ駄目だからね」
「アダねぇは、いっつもそれにゃ・・・分かってるにゃ、ティオは族長の娘だから血は絶やさないにゃ!」
去っていった少年と入れ替わるように近づいてきた猫耳の少女は、ティオフィラに寄りそうに傍によると、彼女に言い聞かせるように囁いた。
ティオフィラはそんな少女の言葉を聞き飽きたと、うんざりとした様子を見せるが、一応とばかりに了承の言葉を返す。
「ふふっ、偉い偉い!そんなティオには、一つアドバイスしてあげる・・・クロード様を逃がしちゃ駄目よ?しっかり捕まえておきなさい!」
「にいやんを?分かったにゃ!!」
ティオフィラの頭を撫でた少女は、クロードの方へと振り返ると意味ありげな表情を作る。
彼女が囁いた言葉の意味をティオフィラはまだ理解してはいないだろう、しかしその力強い返事に少女は薄く笑みを作っていた。
「いい子ね・・・それでは、ティオフィラ・デフラエンテ様。あなたの未来に幸運があらん事を!!」
一瞬だけ立ち止まり、なにやら複雑な動きをした少女は、今までの様子とは打って変わって堅いを言葉を叫んで去っていく。
彼らの覚悟を理解していないティオフィラは、それでも彼らの去っていった方から目を離すことが出来なかった。