ヘルトとヤーナ
ヘルトとヤーナの二人は、クロードによって作り直された獲物を手に、ゆっくりと魔物の群れへと向かっていく。
彼らが屯しているのとは逆方向に進むクラリッサ達に、やがて彼らもその意図に気がつくだろう。
二人はその前に餌を撒く必要があった、自分達という格好の餌を。
「俺も混ぜてくれよ」
後ろから掛かった声に二人が驚き振り返ると、そこには赤髪を血で塗らした少年が佇んでいた。
彼は重たそうに剣を担ぐと、彼らに向かって歩み寄ってくる。
「レオン・・・お前は向こうに行かなくていいのか?」
「俺がいると、嫌がる奴もいるからな」
一人向かってくるレオンに、ヘルトは疑問の声を上げる。
それに応えたレオンは、皮肉げに唇を歪めていた。
彼のそんな態度に、ヘルトはどこか困ったかのように表情を迷わせる、そこにはどこか罪悪感を感じさせた。
「ははっ、今更そんな奴がいるもんかね?まぁ、いいじゃないかヘルト。レオンが残ってくれるんなら、頼もしい限りだろ?」
「そうだな・・・これなら、クラリッサ達が逃げる時間を稼げるかもしれない」
どこか気まずそうにしているヘルトと違い、ヤーナはレオンの登場に嬉しそうな態度をとっていた。
彼女の声にヘルトも思案するように頭を傾かせると、前向きな言葉を口にする。
「・・・悪いが、別に死ぬ気はないぞ?」
二人の様子に思わず呟いたレオンの言葉は、彼らにはあまりに意外な言葉だった。
顔を見合わせた二人は、沈黙に瞬きを繰り返している。
「なかなか言うじゃないか?気に入った!!そうだよ、何も死にに行くわけじゃない!」
「あぁ・・・生きて帰ろう、三人で」
吹き出すように笑みを漏らした二人は、それぞれに希望に満ちた言葉を口にする。
彼らはそれぞれの獲物を掲げると、魔物の群れへと向かっていく。
その足取りは、なにも絶望に向かうものではなかった。