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子供達の戦い 5

「皆、限界が近いわ。今すぐにでも逃げるべきよ!幸い奴らは私達の進路を塞ぐように動いている、今ならにまだ逃げられるかもしれない!!」

「そんな・・・もう拠点はすぐの所まで来てる。ここまで来て、おじ様達を見捨てるなんて出来ない!!」

「もう死んでるかもしれないでしょう!!このままじゃ死んだ人のために、私達まで死ぬ事になる!!クラリッサ、お願い目を覚まして!!!」


 ティオフィラとイダの様子を見るまでもなく、皆が限界なのは明らかだった。

 エミリアはすぐにでも逃げるように、クラリッサに食って掛かる。

 彼女は今だに、トゥルニエ達と合流する未来を思い描いていた。

 聞こえなくなって久しい彼らの声に、エミリアは絶叫するように悲しい現実をクラリッサへと告げる。


「・・・そんな、お父様が?エミリア、それは本当なの・・・?」

「アンナ・・・悪いけど、確かだと思う。聞こえなくなったおじ様達の声、落ちない敵の士気、どれもそれを示している」


 エミリアが告げた言葉に、一番ショックを受けたのはアンナだ。

 彼女はふらふらとエミリアへと近づくと、その肩を揺する。

 彼女とてその事実に薄々気がついてなかったわけではないだろう、それでも誰か言葉にされてしまうとショックを隠す事など出来ない。


「それは・・・でも、まだ分からない!ほら、例えば―――」

「お前ら、何でこんな所にいるんだ!?くそっ、さっさと逃げろっ!!!」


 エミリアが淡々と告げた事実にも、言い訳を探そうとするクラリッサは瞳を迷わせた。

 彼女の言葉は言い終わる前に、飛び込んできた少年によって遮られる。

 彼が乗り捨てたトカゲに似た巨大な魔物は、近くの魔物達を弾き飛ばすと、木に派手にぶつかって動かなくなっていた。


「レオン・・・?お父様は・・・?」

「おっさんは・・・死んだ。だからお前らはさっさと逃げるべきなのに、なぜこんな所にいる!!」


 トゥルニエ達と一緒に行動していた筈のレオンの登場に、アンナはふらふらと近づいていく。

 彼女が問うた言葉に、レオンは一瞬言葉を迷わせながらも断言する。

 彼は彼らその死に様を見てはいない、それでもここでそれを濁すのは害悪にしかならない筈だ。

 なによりも絶望的なあの状況に、生き残る希望などありはしなかった。


「いや、そんな・・・嘘よ。いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「アンナ、落ち着いて!!アンナ!!!」

「お父様、お父様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 父親の死を知らされて錯乱するアンナが、あらん限りの声を張り上げて絶叫する。

 彼女はその事実を告げたレオンに掴みかかろうとするが、それは彼女を抱きとめたエミリアによって制止させられる。

 エミリアの腕の中で暴れる彼女も、抱きしめられる感触にやがて悲しみへと崩れ落ちる、エミリアの胸の中で叫ぶ彼女泣き声だけが、くぐもって辺りへと響いていた。


「それは・・・本当なの、レオン君?」

「本当だ!だから早くっ!!」


 まだ、瞳を迷わせているクラリッサは、縋りつくようにレオンに言葉を掛ける。

 皆を先導すべき彼女のその態度に、レオンは苛立ちに言葉を荒立たせた。


「そう・・・・・・撤退しましょう。皆、いいわね?」


 クラリッサは長い、長い時間を掛けてその言葉を呑み込むと、祈るように一度瞳を閉ざす。

 再び瞳を開いたクラリッサは、強い決意をその目に宿していた。


「・・・勿論よ、クラリッサ。アンナ、大丈夫?」

「・・・分かってる、分かってるの。でも、でも・・・!!」

「いいの、いいのよアンナ。・・・彼女は私に任せて」


 ようやく決断してくれたクラリッサに安堵の表情を浮かべたエミリアは、胸の中でぐずるアンナを気に掛ける。

 彼女は必死に今の状況に適応しようと泣き声を噛み殺していたが、漏れ出す嗚咽は止めようもなかった。

 エミリアはもう一度強くアンナを抱きしめると、彼女の面倒をみると視線と言葉で周りに訴える。


「えぇ、お願いねエミリア。先頭は私と・・・ティオ、お願いできる?」

「任せるにゃー!!」


 クラリッサ達が揉めている間も前線で戦い続けていたティオフィラは、彼女の声に一旦後ろへと飛び退くと元気よく返事を返す。

 当たり前のように全身に傷を作っている彼女の姿に、クロードが慌てて駆け寄ってその傷を癒していた。


「先頭は私とティオが!殿はイダに任せます!!そして―――」

「その先は言わなくてもいいよ、クラリッサ。足の遅い僕達じゃ、足手まといになるだけだからね」

「そうね。でもこれだけはお願い、イダだけは最後まで連れて行ってあげて」


 自らが先頭を行くと宣言したクラリッサは、各自の役割を告げていく、しかし彼女はその最後に言葉を迷わせていた。

 その言葉の先を、彼女は口にする必要はなかった。

 周りから進み出てきたドワーフの少年と少女が、口々に彼女が任せたかった役割を買って出る。

 足止めという、その役割を。


「ヘルト、ヤーナ・・・ごめんなさい、私は」

「いいんだクラリッサ、君にはきつい役割を押し付けてばかりだから・・・これぐらいやらせてよ」

「そうそう!あんたの方が大変なんだからさ・・・頑張りなね」


 彼らの名前を呼びながら涙ぐむクラリッサに、二人はそれぞれ彼女の肩を叩いていた。

 クラリッサに別れを告げた彼らは、少し離れた場所にちょこんと立ちつくしていたイダの下へと歩いていく。


「イダ、これでお別れだ。一人になっても頑張るんだよ」

「あんたの親は確かにすごい鍛冶師だった、でもそんなの気にする事ないんだよ。あんたは、あんたの思うように生きればいい」

「ヘルト、ヤーナ・・・ボクは、ボクは・・・!」


 それぞれにイダへと語り掛けた二人は、歩み寄ってきた時と同じ気軽さで離れていく。

 イダのゴーグルで留めた帽子越しに頭を撫でた二人に、彼女は自らの頭を両手で押さえる。

 涙を湛える瞳が、それを溢れさせる頃には転がった大盾が音を立てる、二人の背中はもうイダには触れられない遠くへと行ってしまっていた。


「・・・悪い、これぐらいしかしてやれない」

「十分ですよ、クロード様。イダを、皆を頼みます」

「まったく、現れるのが遅すぎるんだよあんた!でも、ま・・・ぎりぎり間に合ったよな?」


 拠点の方へと群がっている魔物達へと歩みを進める二人に、クロードが駆け寄っていく。

 彼は素早く彼らの傷を癒すと、その獲物を新品同様に作り直した。

 クロードに視線を向ける二人の表情は、彼に一筋の希望を託していた。


「・・・出発します、皆遅れないで。イダ、大丈夫?イダ!!」


 去っていく二人の姿に、クラリッサは静かに出発の号令を下す。

 彼女の声にその場にいた全ての者が反応し、一斉に動き出した。

 嗚咽を上げながらその場を動こうとしない、イダ以外は。


「・・・あなたには殿を任せます、出来るわね?」

「・・・・・・わがっだ、頑張る!」


 クラリッサは、そんな彼女に近寄ろうとはしなかった。

 ただ静かに言い聞かせるように言葉を告げた彼女は、返事も待たずに集団の先頭へと向かう。

 長い沈黙の後、乱暴に顔を拭ったイダがその後ろへと駆け出していた。

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